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パーキンソン病は、異常タンパク質の伝播を介して進行する

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 2 | doi : 10.1038/ndigest.2013.130204

原文:Nature (2012-11-15) | doi: 10.1038/nature.2012.11838 | Misfolded protein transmits Parkinson’s from cell to cell

Virginia Hughes

神経細胞の死と、パーキンソン病特有のタンパク質凝集塊との間の関連を示す 研究結果が報告された。治療法の開発につながることが期待される。

パーキンソン病については、異常タンパク質が原因となって神経細胞の大量死が引き起こされることが明らかになったばかりだ。今回、その異常タンパク質が細胞間を移動することで脳全体へと広がって神経細胞の死滅を引き起こし、その結果、パーキンソン病の症状が現れる可能性が示唆された。この成果をもとに、異常タンパク質を標的とした古い治療戦略を見直すことで、パーキンソン病の進行を食い止めることができるかもしれない。

Credit: THINKSTOCK

ペンシルバニア大学(米国フィラデルフィア)の神経生物学者Virginia Leeは、マウス組み換えα-シヌクレインタンパク質から、異常な形に折りたたまれるα-シヌクレイン繊維(α-Syn preformed fibrils;以下、PFFα-シヌクレイン)を作製し、正常マウスの脳に注入した。すると、パーキンソン病の主要な症状が出現し、しだいに悪化することが観察された。この結果はScienceにオンライン掲載され1、この疾患でみられる神経細胞の死滅は、各々の細胞で自発的に起こるというよりも、異常な形に折りたたまれたタンパク質が神経細胞間を移動することで広がることが示唆された。

今回の結果は、「PFFα-シヌクレイン」に結合する抗体によって、この異常タンパク質の神経細胞間の移動を阻止できる可能性を示している。「抗体を脳内に入れることはもちろん、細胞内に入れることは非常に難しいです。それでもパーキンソン病の進行を遅らせることができる可能性があるのです」と、Leeは言う。

パーキンソン病で観察される異常タンパク質が、神経細胞から神経細胞へと広がる可能性については、2008年に示唆されていた。パーキンソン病の患者に胎児の神経組織を移植したところ、移植神経細胞内に、この疾患で特徴的なタンパク質凝集塊、「レヴィ小体」が形成されたためだ2,3。これは、移植組織に対し、近傍に存在する異常細胞が何らかの形で影響を与えたことを示していた。その後の研究から、PFFα-シヌクレインが近傍の細胞に移動できること4、また、細胞死を引き起こしうること5が示された。

しかし、PFFα-シヌクレインがパーキンソン病にみられる数々の障害を引き起こす原因なのかについては、不明であった。「我々は以前から、PFFα-シヌクレインが細胞間を移動できることをつかんでいました。でも、これがパーキンソン病に重要かどうかまでは、わかりませんでした」と、ピッツバーグ神経変性疾患研究所(米国ペンシルバニア)の所長で、今回の研究にはかかわっていなかったTim Greenamyreは言う。

Leeは、今回の研究で、この疾患における「脳を移動するα-シヌクレイン」の重要性を完全にとらえた、と言う。

潜行性の伝播

パーキンソン病には、2つの明確な特徴がある。レヴィ小体と呼ばれるタンパク質凝集塊の出現と、化学伝達物質ドーパミンを産生する神経細胞の激減だ。Leeの研究チームが、PFFα-シヌクレインをマウス脳の線条体(ドーパミンが豊富な領域)に注入すると、レヴィ小体が形成され、続いて、ドーパミンを産生する神経細胞の死滅が観察された。また、注入部位近傍の神経細胞に接続している神経細胞にもレヴィ小体が出現した。これは、細胞間伝達が行われている証拠である、と研究チームは言う。

しかし、Greenamyreは、この結果は、細胞間伝達が可能であることを示しただけで、その証明にはなっていないと言う。「今回の彼らの実験では、影響を受けた細胞はすべて、注入部位に直接接触しているのです」と、Greenamyre。

とはいえ、注入を受けたマウスでは、6か月以内に、運動機能、筋力およびバランス感覚のすべてにおいて、パーキンソン病患者にみられる障害が現れた。

今回の研究成果は、パーキンソン病に対するα-シヌクレイン抗体の臨床試験の理論的裏付けになる、とカリフォルニア大学サンディエゴ校(米国)の神経科学者Eliezer Masliahは言う。「この結果には非常に驚きました。私たちは長い間その種の実験を試みてきましたが、これほど劇的なのは初めてです」。また、今後の研究課題は、α-シヌクレインがどのような方法で細胞から出入りするのかを明らかにすることだ、と彼は付け加えた。

しかし、まだ、大きな謎が残っている。なぜ最初にレヴィ小体が出現するのだろうか? 「パーキンソン病は、脳にシヌクレインを注入されることで発症する病気ではありません」と、ジョンズ・ホプキンス大学細胞工学研究所(米国メリーランド州ボルチモア)の所長Ted Dawsonは強調する。「何がこの病を発症させるのかは、わかっていないのです」。

(翻訳:三谷祐貴子)

参考文献

  1. Luk, K. C. et al. Science 338, 949-953 (2012).
  2. Li, J.-Y. et al. Nature Med. 14, 501–503 (2008).
  3. Kordower, J. H. et al. Nature Med. 14, 504–506 (2008).
  4. Desplats, P. et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA 106, 13010–13015 (2009).
  5. Volpicelli-Daley, L. A. et al. Neuron 72, 57–71 (2011).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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