News

たくさんの匂いを混ぜると、みな同じ匂いになる

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 2 | doi : 10.1038/ndigest.2013.130205

原文:Nature (2012-11-19) | doi: 10.1038/nature.2012.11846 | The whiff of white could hide strong odours

Zoë Corbyn

さまざまな匂いをたくさん混ぜ合わせると、結局は、みな似たような匂いになることが明らかになった。 多色光を混ぜると白色光になるのとよく似ている。

波長の異なる可視光を混ぜ合わせると「白色光」になる。このことから、さまざまな周波数が混ざり合った雑音は、「白色雑音(ホワイトノイズ)」と呼ばれている。今回、匂いの世界でも、これによく似た「白色臭」、つまり研究者が「嗅覚的な白」と呼ぶ匂いが発見された。それは、よい香りでも、嫌な臭いでも、鼻を突くような匂いでもない。

Credit: THINKSTOCK

この匂いは、さまざまな香気分子、つまり異なる嗅覚スペクトルを持つ分子を混ぜ合わせる実験から見つかった。興味深いことに、2つの調合物の間に共通の成分がなくても、調合物の香気成分が多くなると、2つの匂いはますます似たものになった。そして、香気成分が30種類くらいになると、ほとんどすべての匂いは同じになった1。ということは、ほかの特徴的な匂いが、すべて隠されてしまうことも示している。

人間の鼻には何百種類もの匂い受容体がある。したがって、2012年12月4日付のProceedings of the National Academy of Sciences に掲載された今回の成果は、明らかに直感に反している。研究を主導したワイツマン科学研究所(イスラエル・レホヴォト)の神経科学者Noam Sobelは、「新たに匂い物質が加わるほど、匂いはより特殊なものになっていくと誰もが思うでしょう。ところが、そうではないことがわかったのです」 と言う。

組み合わせの妙

Sobelらは、既知の86種類の純粋な匂い分子を選び(これらが個々の嗅覚スペクトルを代表する)、それぞれが同じ強さに感じられる濃度に希釈した。それをもとに、異なる匂い分子を最大43種類まで混ぜ合わせ、191種類の香気調合物を作った。そして、それらの調合物の2つがどれだけ似ているか、56人の被験者に評価してもらった。

その結果、2つの調合物に含まれる成分が多いほど、匂いが似てくることがわかった。被験者は、調合物の成分が20種類以上になると、匂いが似ていると感じ始め、30種類になると「とても似ている」と感じるようになった。この傾向は、知覚的収斂の終点、すなわち「嗅覚的な白」の存在を予想させた。

この現象は、続きの実験でも確認された。研究チームは、40成分の香気を混ぜた調合物を新たに4つ作成し、すべてに「ローラックス」というラベルを付けた。被験者には、まず4つのうちの1つの調合物を嗅いでもらって匂いを覚えてもらい、次に、別の調合物を嗅いでもらった。すると、その香気成分が20種類以上の場合、その匂いを「ローラックス」と答えるケースがかなり見られた。別の40成分の香気調合物を嗅いだときは、実に58%の被験者が「ローラックス」だと答えた。

白い色はどんな陰にあっても白と識別されるが、Sobelによれば、それは嗅覚的な白でも同じことだという。ただし限界もある。光や音とは異なり、嗅覚空間の全容、つまり人間が感知できるすべての分子はまだ明らかにされていないのだ。Sobelは、そのことが「嗅覚的な白」という概念を否定することにはならないと言う。ただし、本当の白の匂いが、今回の実験で明らかになった白の匂いと、少し異なる可能性はある。

総合的にとらえる

ニューヨーク大学ランゴン医療センター(米国)で嗅覚を研究するDonald Wilsonは、今回の成果を「混ざった匂いを嗅覚系が処理する仕組みについて、非常に基本的なことを教えてくれています」と評価する。

また、デューク大学(米国ノースカロライナ州ダーラム)で嗅覚を研究している松波宏明によれば、今回の結果から、嗅覚系は個々の分子ではなく匂いを総合的に検知している可能性が強まった、 と言う。

ところで、今回の研究は何かに応用できるのだろうか。Sobelらの別の実験では、バラの香りの主要な4種類の分子を、嗅覚的な白の調合物と組み合わせると、バラの香りはほとんどわからなくなってしまった。つまり、「嗅覚的な白」を使えば、さまざまな匂いを隠すことができる可能性が示された。

異なる調合物の匂いが、なぜ似通って感じられるようになるのだろうか。その生理学的な仕組みは、まだ明らかにされていない。では、「嗅覚的な白」に、嗅覚受容体は関与しているのだろうか。Sobelは否定的だ。嗅覚受容体は特異性が高いことが知られており、30種類の匂いならば、それだけ多くの受容体が活性化されなければならないからだ。「いったい、脳の中で何が起こっているのでしょうか」とSobelは問いかける。

(翻訳:小林盛方、要約:編集部)

参考文献

  1. Weiss, T. et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA http://www.pnas.org/cgi/doi/10.1073/pnas.1208110109 (2012).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

プライバシーマーク制度