Editorial

新たな気候変動条約まで、省エネでしのげ

2012年11月26日から12月8日まで、カタールのドーハで地球温暖化に関する国連の会議(COP18)が開かれた。京都議定書は2012年で失効することになっており、ドーハ会議では、2015年の調印、2020年の発効をめざした新しい地球気候条約が重要目標の1つだった(編集部注:結局、今回の会議で京都議定書を2020年まで継続することになった)。地球の平均気温は、21世紀末までに最大4℃上昇する勢いだが、国連はそれを2℃に抑えたいと考えている。

残念ながら、地球温暖化という現実とその対応策を作るための外交は、別のスケジュールで動いている。地球温暖化阻止に向けた行動が始まるのが8年先であるため、国連の気温上昇目標の達成は不可能なことが確実視されている。しかし、国際外交が進展するまでの時間稼ぎは、いくつもある。中でも最も有望なのが、エネルギー効率の向上、つまり省エネだ。

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国際エネルギー機関(IEA)の報告書「世界エネルギー展望2012年版」によれば、世界のインフラがこのままの状態であれば、炭素排出が増加し続けて、2℃の気温上昇目標は2017年までに破綻するという。それを防ぐには、発電所、工場、ビルのような施設を多額の資金をかけて改造するか、あるいは早期に廃棄する必要がある。その一方で、IEAは、省エネによって5年の時間的猶予が生まれ、再生可能エネルギーや他の低炭素エネルギーへの移行に向けて、方針転換できる機会が生まれるとの見解を示している。

全世界のエネルギー消費量は、日本、中国、欧米諸国がエネルギー需要を抑えると約束しているにもかかわらず、2035年までに現在の3分の1以上増えると予想されている。「効率的な世界」を内容とするシナリオでは、もっと高い省エネ目標値を設定する国が増え、エネルギー需要が半減する可能性もある、と予想している。IEAの推定では、1980年から2010年までに全世界で達成された省エネにより、世界のエネルギー需要は35%も削減された。これは、中国と米国における現在のエネルギー消費量の合計にほぼ匹敵する。

IEAは、例えば効率のよい電気器具、自動車、住居、工場などを、これまで以上に積極的に広範に普及させる措置をとれば、今から2035年までに、追加支出は11.8兆ドル(約1000兆円)必要になるが、かなりの見返りも見込まれると試算する。直接的な燃料費が17.5兆ドル(約1490兆円)減少し、エネルギー・インフラへの投資額が約5.9兆ドル(約500兆円)減少すると考えられるのだ。こうして節約された分は、別の投資先に振り向けられ、世界経済の生産高を約18兆ドル(約1500兆円)引き上げるのに貢献する。ただ、こうした潜在利益も、目先の利益のみを追いかける複雑な市場に任せれば、食い散らかされてしまう。

各国政府は、次の国際条約まで待たずに、あらゆるレベルで解決法を模索しなければならない。例えば、化石燃料に対する補助金を減らしたり消費税を上げたりすれば、エネルギー消費量は減らせるだろう。日本と欧州が省エネ先進国となった一因は、高率のエネルギー税にあった。同様に、石油市場の価格上昇によって、米国人の石油消費も減少しつつある。

しかし、どんなに価格を操作しても、しかるべき人々にメッセージが届かないと、それは何の役にも立たない。現在、ビルの省エネ技術投資に対して、インセンティブが働いていない。この状況を変えるために、各国政府は建築基準法を強化し、省エネ改造コストに税の優遇策を与える必要がある。また、不動産を売却するときにエネルギー監査を義務付ければ、売り主にも買い主にも長期運用コストを意識させることができるはずだ。

気候変動に関する今後の会議では、各国の交渉担当者は、今よりも野心的な目標に世界が合意できるよう、模索し続けなければならない。同時に、各国政府は、気候変動に関連する約束を最後まで守り、国内での二酸化炭素排出量を減らし、将来的な行動のための土台を築くために最大限の努力を払う必要がある。各国政府は、温室効果ガスの排出抑制策に投資すれば、将来、それが利益となって戻ってくることを認識すべきだ。その最も明白な具体策が、省エネなのだ。

翻訳:菊川要

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 2

DOI: 10.1038/ndigest.2013.130237

原文

A way to buy time
  • Nature (2012-11-29) | DOI: 10.1038/491637b