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細胞内の小胞輸送を解明した人々

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 12 | doi : 10.1038/ndigest.2013.131202

原文:Nature (2013-10-09) | doi: 10.1038/502149a | Cell transport carries off Nobel

Ewen Callaway

細胞内で生体分子を生合成するには、ある構造体から別の構造体へ、作りかけの分子を移さなければならない。それが小胞輸送で、今年のノーベル医学生理学賞は、その機構を解明した3人に授与される。

Thomas Südhof(左)、Randy Schekman(中)、James Rothman(右)は、小胞が目的の構造へと分子を送る仕組みを解明した(Rothman はイングランド王ヘンリー8 世とよく似ているという)。

Credit: L TO R: TONY AVELAR; HADAR GOREN; YALE UNIV.

今年のノーベル医学生理学賞は、細胞内“郵送”サービスの機構を説明した3人の科学者に贈られる。彼らの研究によって、細胞がどのような仕組みでタンパク質などの生体分子をある場所から別の場所へときちんと運ぶのか、明らかになった。また、この輸送過程は、細胞外への物質放出にも関与しており、神経伝達物質の放出やインスリンの分泌など、さまざまな場面で重要な役割を演じている。

エール大学(米国コネティカット州ニューヘイブン)のJames Rothman、カリフォルニア大学バークレー校(米国)のRandy Schekman、スタンフォード大学(米国カリフォルニア州)のThomas Südhofの3人が、賞金800万スウェーデン・クローナ(120万ドル、約1億2000万円)を三等分する。授賞式は12月10日、ストックホルムで行われる。

授賞理由は「細胞内における主要な輸送系である小胞輸送の制御機構の発見」である。小胞とは脂質膜に囲まれた小さな袋で、他の構造と融合・分離することによって、細胞内のあちらこちらに生体分子を運搬する。

ホワイトヘッド生物医学研究所(米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)の免疫学者Hidde Ploeghによると、3人の研究は細胞生物学では基本中の基本であるため、当たり前のことと思われやすいという。「学生や大学院生に細胞生物学を教えるときに、小胞輸送に関しては、最初から多くのことが分かっていたかのように話してしまうのです」。

RothmanとSchekmanが研究を始めたのは1970年代の終わり頃だった。当時、すでに小胞が細胞輸送に関係することは知られていたが、この小胞が、雑然とした細胞内の管理にどう役立っているのかは、ほとんど解明されていなかった。2人は、小胞が細胞内でどのように作られ、どのようにして自分の行くべき目的地を知るのか、また、どうやって他の膜に融合するのかを調べようと取り組んだ。ただ、2人のとった方法は大きく異なっていた。

スタンフォード大学の若手研究者だったRothmanは、生化学の手法に基づき、小胞輸送の全過程を試験管内で再現することを目指して研究を始めた。哺乳類細胞にはあるウイルスが感染している場合があり、他のウイルスと同様、このウイルスは小胞輸送系を利用していた。そこでRothmanは、哺乳類細胞の抽出物を精製してタンパク質を探し、このウイルスのタンパク質の1つをマーカーとして利用して、小胞輸送を追跡することにしたのだった。Rothmanのチームは、標的となる膜に小胞が融合する際に不可欠なタンパク質をいくつか精製し、最初の1つをN-エチルマレイミド感受性因子(NSF)と名付けた。

サンフランシスコ湾の対岸のバークレーでは、Schekmanのチームが、同じ問題の解明に別の方法で取り組んでいた。彼らは出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeの変異株を作成し、特定の酵素の細胞内輸送ができなくなった変異株を探した。この研究によって最終的に23個の「分泌遺伝子」が明らかになり、そのうちの1個はNSFタンパク質をコードしていることが判明した。

これらの発見に対して、当初は多くの科学者が疑いの目で見ていた。マックス・プランク分子細胞生物学・遺伝学研究所(ドイツ・ドレスデン)で細胞内輸送を研究している分子生物学者Marino Zerialはそう指摘する。「当時、生化学者は遺伝学的手法を好まず、一方、遺伝学者は生化学的手法に疑問を持っていたのです」。

その後、1980年代後半から1990年代前半に行った研究で、SchekmanとRothmanのチームは、小胞の融合の基本的な仕組みを明らかにした。つまり、小胞の膜に埋め込まれたタンパク質は、目的地の膜上にあるタンパク質をカギとカギ穴方式で認識するというものだ。この機構の詳細は今でもはっきりとは解明されていない。「彼ら2人の相乗作用は本当に素晴らしいものでした。私にとって彼らは偉大な英雄です」とZerialは語る。

一方、Südhofは、ニューロンにおける小胞の融合に的を絞って研究した。ニューロンは、小胞に封入された神経伝達物質を利用して、他のニューロンと情報をやり取りする。1980年代後半に入って間もない頃、SüdhofはRichard Scheller(現在は、カリフォルニア州サウスサンフランシスコのバイオ企業、Genentech社に所属)のチームとともに、ニューロンでの小胞融合過程に重要な役割を果たすタンパク質をいくつも同定した。また彼は、カルシウムが引き金となって神経伝達物質を含む小胞の融合が起きる仕組みも明らかにした。

「これは素晴らしい物語です。細胞内での膜を介した物質輸送過程がどのように起きるのか、25〜30年前は何も分かりませんでした。しかし今や、関与するタンパク質や要素が明らかになり、それらの働く仕組みについても合理的な説明ができるようになったのです」とダートマス大学医学系大学院(米国ニューハンプシャー州ハノーバー)の生化学者William Wicknerは言う。「この非常に大きな進歩は、彼ら3人の力によるものです」。

ドイツのカイゼルスラウテルン工科大学の細胞生物学者Johannes HerrmannはSchekmanの下で学んだことがあり、メンターだったSchekmanに対して称賛の思いでいっぱいで、「今日は最高の日です」と言う。当時のSchekmanは、研究室に大きな目標を設定し、それを達成したときには、研究室全体に豪華な食事をご馳走してくれたという。またSchekmanは学生たちに、旅行や美術など、仕事以外のことにも関心を深めるよう勧めていた。Schekmanは2006年から2011年までProceedings of the National Academy of Scienceの編集長を務め、その後、オープンアクセス雑誌eLifeの編集長に就任しているが、その理由も分かろうというものだ。

今回の授賞は、生物医学と基礎研究の関連性にも光を当てたとPloeghは指摘する。「医学的問題の解決にすぐに必要というわけではなかった基礎的な発見が、今回、高く評価されたのです」。

なお、3人の授賞者はいずれもアルバート・ラスカー基礎医学研究賞の授賞者だ。この賞に選ばれると、後にノーベル医学生理学賞を授賞する可能性が高いと言われており、Südhofは、神経伝達物質放出に関する研究でSchellerと共に今年受賞した。SchekmanとRothmanは、2002年に共同で授賞している。

(翻訳:宮下悦子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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