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特許収益に奔走する大学にとっての落とし穴

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 12 | doi : 10.1038/ndigest.2013.131219

原文:Nature (2013-09-25) | doi: 10.1038/501471a | Universities struggle to make patents pay

Heidi Ledford

ライセンス供与の申し出のない知的財産を多数抱えた研究機関が、不適切と思われる企業との協力関係に追い込まれている。

カリフォルニア工科大学が特許を取得した方法による表面の画像化。この特許は、問題視されているパテントトロール会社にライセンス供与されてしまった。

Credit: Nathan Litke, Adi Levin, Peter Schröder/Computer Aided Geometric Design/Elsevier

「物体の表面を画像化する方法の発明」に関する米国特許第7023435号は、カリフォルニア工科大学(米国パサデナ)が出願した特許であり、米国特許庁による4度の拒絶を乗り越えて、2005年にようやく権利化にこぎ着けた。同大学は、苦労して勝ち取ったこの特許に価値があると信じているが、産業界からの反応はなく、3年経過しても実施権のライセンス契約には結び付かなかった。そこで同大学は、2008年にインテレクチュアル・ベンチャーズ社(米国ワシントン州ベルビュー、以下IV社)の子会社との間で、この特許を含む約50件の特許に関して、独占的ライセンス契約(独占的かつ排他的な実施権の付与。つまり他社に対し差止め請求などが可能)を締結した。要するに二束三文で処分したわけだ。

IV社がこうして買い集めた特許の数は4万件にも上る。同社は、集めた特許を武器に、年間30億ドル(約3000億円)ものライセンス使用料を荒稼ぎしている。彼らは、所有する発明や知的財産を自ら発展・展開することはほとんどなく、もっぱら、特許権の侵害訴訟ないしはそれを攻撃的交渉手段として、莫大な利益を上げているのだ。

IV社のような合法的な“特許ゴロ”を、米国ではパテントトロール(特許の怪物)、あるいはアグリゲーター(特許収集屋)、マネタイザー(特許収益化事業体)などと呼ぶ。大学が所有する発明をそうした問題視される事業体に委ねることに対しては、当然ながら、疑問の声が上がっている。しかし大学の技術移転部門は、研究成果を学外に展開させて利益を上げるよう強い圧力を受けており、契約相手をより好みできなくなっている。

「大学自体が収入源を見つけるのに苦しんでいるため、パテントトロール企業からの甘言が、非常に魅力的に映ってしまうのです。これは由々しき問題です」と話すのは、カリフォルニア大学ヘイスティングス法科大学院イノベーション法科研究所(米国サンフランシスコ)の所長Robin Feldmanだ。実際にその兆候が見られると話す彼女は2012年、全世界の45大学の特許がIV社のダミー会社群にライセンス供与ないしは売却された証拠を公表した(T. Ewing & R. Feldman Stanford Technol. Law Rev. 1; 2012)。

当のIV社は、パテントトロールという扱いにいら立ちを隠さない。同社の海外技術部門長を務めるPatrick Ennisは、商業活動している証拠として、新興企業3社の立ち上げに貢献したこと、またカリフォルニア工科大学などの大学とは、特許権譲渡の見返りに研究助成契約を結んでいることを挙げる。

大学が特許をライセンス供与する目的は、多くの場合、公的資金の助成を受けた研究を企業や製品に反映させることで、景気を刺激することとされる。しかし、別の狙いが隠されている。それは、研究に対する助成金と技術移転部門の運営費をもっと多く獲得することだ。そう説明するのは、コーネル大学(米国ニューヨーク州イサカ)の技術移転担当官を務めたことがあり、現在はコンサルタントとして働くMelba Kurmanだ。この2つの目的は、矛盾することがある。「特許ポートフォリオの収益化が目的なのであれば、競売にかけて、最高価格で入札した者に売却するのが理にかなっています。しかし、税金で助成した研究による特許の場合、この方法は容認できません」とKurmanは話す。

しかし実際には、入札者を1人でも見つけられれば、技術移転担当官として評価される。というのは、彼らの多くは、実用化までに何年もかかるような特許を、数多く抱え込んでいるのが現実だからだ。デラウェア大学(米国デラウェア州ニューアーク)技術移転室で担当部長を務めるJoy Goswamiの見積もりによれば、ほとんどの大学では、保有特許のわずか5%しかライセンス供与できていないという。残りの特許には維持費や法務費などのお金がかかるばかりで、事務資源が無駄につぎ込まれている状況だ。

2013年9月9日と10日、米国マサチューセッツ州ボストンで大学技術マネジャー協会(Association of University Technology Managers:AUTM)の会議が開催され、ライセンス供与されていない95%の特許の負担を軽減する方法について、Goswamiが議論を主導した。1つの方法は、知的財産の取引を専門とするブローカーやオークション会社を使って特許を売却することだ。この解決法には異論があり、一部の大学は尻込みする。「大学側としては、特許を公共の利益に最も資する方法で確実に管理したいのですが、特許を売却すれば、その手段を失うことになります」。こう話すのは、ノースカロライナ州立大学(米国ローリー)の技術移転室長Kelly Sextonだ。同大学はうまくいっている方で、特許の15%をライセンス供与している。

特許ブローカーのIPOfferings社(米国フロリダ州ボーカラトーン)の副社長Thomas Majorは、大学側の躊躇が理解できないという。彼は、ユタ大学(米国ソルトレークシティー)で9年間知的財産の管理に携わった経験があり、「大学がオークション会社を無視するのは無謀としか思えません。ユタ大学にいた頃、私はライセンス供与できないような特許はすぐに売却していました」と打ち明けた。

IPOfferings社がこの3年間に扱った大学の特許は約20件あり、これは同社の総事業収入の約7%に相当する。特許のオークションで最も有名なOcean Tomo社(米国イリノイ州シカゴ)の最高経営責任者James Malackowskiによれば、同社に接触を図る大学の数が増えており、現在は大学からの収入が総事業収入の約20%を占めると話す。大学側の懸念に対し、MajorもMalackowskiも、「特許を購入する側、あるいは独占的ライセンスを受ける側について、会社で制限を定めることは可能だ」と説明する。たとえそれができても、ある大学はパテントトロールの提示額を見てオークションの申し込みを取り消したことから、「結局は、金額の問題なのです」とMajorは話す。

こうした大学側の決定は、100以上の研究機関が2007年に承認した倫理的な特許ライセンス供与の指針に関する覚書の精神に反する。この文書には、特許アグリゲーターと関係する際のリスクについての記述があり、署名者には、カリフォルニア工科大学をはじめ、Feldmanによる調べでIV社へのライセンス供与が明らかになったデューク大学(米国ノースカロライナ州ダーラム)、フロリダ大学(米国ゲインズビル)、オタワ大学(カナダ)の名前も並ぶ。特許取引について問いただすと、上記の大学は全てコメントを拒否した。

カリフォルニア工科大学の数学者Peter Schröderは、米国特許第7023435号の3人の発明者の1人だが、「頭痛の種にはなっていません」とあまり気にしていない。もしIV社が彼の特許を使って他の会社を困らせているのなら気になるが、これまでのところ、そんなことが起こったという話は聞いていないからだ。

(翻訳:菊川要、編集:編集部)

訳註:パテントトロールによる特許侵害訴訟を抑えることを目的とした米国特許法の改正案が、2013年10月23日、米連邦議会下院に提出された。

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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