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最古の顔を持つ古代魚

化石標本の詳細な画像から明らかになった下顎(左)および装甲版と上下の顎(右)。

Credit: Min Zhu et al. Nature

一見してそうは思えないだろうが、我々の顎は、古生代の化石魚類Entelognathus primordialisの顎とそう違わないらしい。この古代魚は、4億1900万年前に、現在の中国にあたる一部の地域に生息していたもので、今回、現生脊椎動物と同じ顎を持つ脊椎動物として、知られるうちで最古の種であることが示され、Nature 2013年10月10日号に掲載された1

中国科学院古脊椎動物古人類学研究所(北京)の古生物学者Min Zhuらは、今回、E. primordialisの化石を分析し、この化石魚を板皮類の新種として分類した。板皮類は、約4億3000万年前から3億6000万年前まで生息しており、哺乳類を含む多くの脊椎動物と同様に骨でできた頭蓋と顎を持っていた、甲冑魚の一群だ。

しかし、ほとんどの板皮類の顎は、骨板でできた、くちばしに似た単純なものだったため、古生物学者の間では、板皮類の顎の特徴と我々ヒトの顎との関連性はないとされており、このため板皮類の「顔」は、進化の系統樹の中で闇に消えていき、現生まで存続しなかったと見なされていた。そして、現生の有顎脊椎動物(顎口類)の最終共通祖先には明確な顎骨がなかったというのが主流の意見である。つまり、現生有顎脊椎動物の最終共通祖先はサメに似た動物(軟骨魚類)であり、その骨格はほとんどが軟骨でできていて、骨はせいぜい小さい骨板として体を覆う程度でしかなかったと考えられている。

この理論によれば、「現代的な顎」を生み出したのは、硬骨魚類ということになる。硬骨魚類がその後進化し、顔面の大きな骨を独立に発達させた。そして、そうした顎のある魚類が海で優位を占めるようになり、そこからやがて陸生脊椎動物が出現したというわけだ。

しかし、今回のE. primordialisに関する知見1は、その従来の考え方を覆すことになりそうだ。E. primordialisの化石は、これまでの多くの板皮類化石に比べてはるかに保存状態がよかった。そして、年代的には、知られるうちで最古の軟骨魚類化石や硬骨魚類化石よりも古いにもかかわらず、その顎は硬骨魚類の顎のようだったのだ。

Zhuらは、この結果を考慮に入れて有顎脊椎動物の系統樹を見直した。そして、現生脊椎動物の骨でできた顔が、今回見つかった化石魚類E. primordialisの祖先動物に由来する可能性がかなり高いことを示した。つまり、この系統樹を踏まえると、現生有顎脊椎動物の最終共通祖先の見た目は、予想されていたよりもヒトに近かったという理屈になる。また、軟骨魚類は古生物学者が考えていたほど原始的ではなく、適応の結果として硬い骨がなくなったと考えられる。

しかし、この報告に関するNews & Views(Nature 502, 175-177)では、今 回の描き直された系統樹が最終的な結論だとはまだ言えないとしている。E. primordialisの顎が硬骨魚類系統とは独立に進化したものであり、従って我々の顎とのつながりはなく、両者が似て見えるのは単なる思い込みにすぎないという可能性もまだ残っている。

翻訳:船田晶子

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 12

DOI: 10.1038/ndigest.2013.131207

原文

Ancient fish face shows roots of modern jaw
  • Nature (2013-09-25) | DOI: 10.1038/nature.2013.13823
  • Eliot Barford

参考文献

  1. Zhu, M. et al. Nature 502, 188–193 (2013).