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ヒッグス機構の提唱者に物理学賞

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 12 | doi : 10.1038/ndigest.2013.131204

原文:Nature (2013-10-09) | doi: 10.1038/502150a | Higgs theorists amass physics prize

Richard Van Noorden

ヒッグス粒子探しが始まってから半世紀近くが経過し、昨年ようやくそれが発見された。そして今回、2人の理論物理学者にノーベル物理学賞が贈られることになった。

2012年7月にCERNを訪問したノーベル物理学賞受賞者Peter Higgs(右)とFrancois Englert(左)。

Credit: FABRICE COFFRINI/AFP/GETTY

ヒッグス粒子の発見は、ここ10年の素粒子物理学における最大のニュースだ。実験には数千人もの科学者が関わったが、ノーベル物理学賞選考委員会が受賞者に選んだのは2人の理論家だった。2013年10月8日にストックホルム(スウェーデン)で行われた発表で、今年のノーベル物理学賞は、ヒッグス機構に関する理論を提唱したエディンバラ大学(英国)のPeter Higgsとブリュッセル自由大学(ベルギー)のFrancois Englertに贈られることになった。ヒッグス機構とは、宇宙を満たすヒッグス場が素粒子に質量を与える過程のことで、そこにはヒッグス粒子(ヒッグスボソン)の存在も含まれている。ジュネーブ(スイス)近郊にある欧州原子核研究機構(CERN)の理論物理学者John Ellisは、今回の選考について、「私でも同じ選択をしたでしょう」と語った。

ヒッグス粒子が瞬間的に生成したというニュースは、2012年7月4日に発表された。それは、30億ユーロ(約4000億円)を投じて建設されたCERNの大型ハドロン衝突型加速器(LHC)で行われた高エネルギー粒子の衝突実験で得られた。ノーベル賞の発表を聞いてCERNの他の理論研究者たちと一緒にシャンパンを開けたというEllisは、もしヒッグス粒子を探す実験に参加した研究者にノーベル賞を授与しようとしたら、面倒なことになっただろうと言う。「EnglertとHiggsの先駆的な研究は、十分、受賞に値します」。

「私の研究がこの素晴らしい賞を受けたことを心からうれしく思います」と、Englertはコメントした。極端に内気で、9月に急性気管支炎の発作を起こしたばかりのHiggsは、インタビューを受けることができなかった。意外なことに、この2人の理論家は昨年7月にCERNで初めて顔を合わせたという。

既知の全ての素粒子と重力以外の力を記述する素粒子物理学の「標準理論」をジグソーパズルにたとえれば、ヒッグス粒子は失われた駒だった。それはヒッグス場の最小のさざ波で、電子、クォーク、弱い核力を運ぶWボソンやZボソンなどに質量を与えるものだ。

Ellisの言葉を借りると、ヒッグス機構のアイデアが提案された1960年代、基本的な力を記述しようとする物理学者たちは、「理論のあちこちにぷかぷかと浮かんでいる質量ゼロの厄介な粒子」に悪戦苦闘していた。1964年に、ある「場」がこの問題を解決することを6人の物理学者が独立に明らかにした。1964年8月にRobert Brout(2011年に死去)とEnglertが最初の論文を発表すると、その3週間後にHiggsが論文を発表した。当時、この理論が意味していた重いボソンについて言及したのはHiggsだけだった。さらに、Tom Kibble、Gerald Guralnik、Carl Hagenも論文を発表したが、「ほとんど誰も注意を払いませんでした」とEllisは言う。主な理由は、そうした理論を使って計算する方法が分からなかったからだ。1971年にGerald ʼtHooft(1999年にノーベル物理学賞受賞)がこの計算に必要な数学を整備したことで、彼らの論文の引用回数が急増し始め、ヒッグス粒子探しが本格化した。

このように、いわゆる「ヒッグス機構」の構築に関わった理論家の数は 多く、Higgsがこれを「ABEGHHKʼtH(Anderson–Brout–Englert–Guralnik–Hagen–Higgs–Kibble–tʼHooft)機構」と呼んだことはよく知られている。しかし、ヒッグス粒子の実在証明に参加した実験家の人数は、これよりはるかに多い。

ヒッグス粒子発見の発表の際、HiggsはCERNに集まった聴衆に対して、「私が生きている間にこんな日が来るなんて、本当に信じられません」と語った。Higgsの同僚であるエディンバラ大学のAlan Walkerは、「あの日の名誉は実験家のものでした。だから、今回は理論家に名誉を贈ったのでしょう」と言う。

(翻訳:三枝小夜子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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