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カメさん、あちらへ

最近の推定によると、マグロ、エビ、タイなどの漁に伴って網にかかって引き揚げられてしまうウミガメは、10年で何百万匹にも及ぶという。ほとんどが絶滅の危険性が高い「危急種」で、こうした混獲が、ウミガメの死の主因になっているとみられている。

漁業を完全に禁止すると地元の経済に大打撃となるので、自然保護活動家は漁網に近づかないようウミガメに警告する方法を探してきた。ウミガメは可視光に加え紫外線も知覚できることがこれまでの研究で示されている。これに対して、多くの魚は紫外線までは見えない。「ウミガメと魚の視覚スペクトルには違いがあるのです。つまり、紫外線域に、カメには見えるが魚には見えない選択的な波長域があるということです」とハワイ大学マノア校の水産技術研究者John Wangは言う。

混獲が4割減

Wangらはメキシコのバハ・カリフォルニア・スル州の漁師たちと協力して、再利用可能な電池式紫外線発光ダイオード(LED)を“ウミガメよけ”として利用する実験を行った。刺し網に紫外線LEDを5m間隔で取り付けて点灯させたところ、LEDを点灯させなかった網と比較して、ウミガメの混獲が約40%も減ったのだ。この結果はBiology Lettersに報告された。

なお、LEDを点灯させた網は、点灯させなかった網に比べてかかった魚の数がわずかに少なかったが、経済的価値に有意な差はなかった。

漁師たちは当初この研究への参加に消極的だった。しかし、やがて「漁業を犠牲にしてまでウミガメを守ろうとしているわけではないことを理解してくれました」とWangは言う。長い目で見ると、こうした技術は漁師の経費節減につながる可能性もある。「ウミガメは漁具をメチャメチャにするので、混獲防止策が大きなメリットになる地域もあるのです」と、今回の研究には加わっていないスタンフォード大学海洋問題解決センターの客員研究員Hoyt Peckhamは指摘する。LEDの現在の価格は1個2ドルほどだが、下がる傾向にある。

別の波長のLEDを使えば、カメを遠ざけると同時に、商品価値のある魚を引き寄せることができるかもしれないとWangは考えている。2014年には、このアイデアをメキシコ、ブラジル、インドネシアで試してみる計画だ。

翻訳:粟木瑞穂

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 12

DOI: 10.1038/ndigest.2013.131210b