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マウスの生体内で幹細胞を作製

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 11 | doi : 10.1038/ndigest.2013.131103

原文:Nature (2013-09-11) | doi: 10.1038/nature.2013.13725 | Stem cells created in living mice

Heidi Ledford

マウスの生体内で成体細胞を再プログラム化できることが示された。組織再生の実現に向けて新たな扉が開かれる。

マウスの生体内でiPS 細胞が作製された。これは、シャーレの中で作製したiPS 細胞より、分化全能性を持つ本来の幹細胞に近いようだ。

Credit: Maria Abad & Lluc Mosteiro/CNIO

成体細胞を、シャーレの中ではなくマウスの生体内で再プログラム化し、胚性幹細胞のような状態に変換できることが分かった。この成果は2013年9月11日、Natureオンライン版で発表された1

この技術により、細胞をその本来の生存環境から取り出すことなく再プログラム化することが可能となる。実験は初期段階ではあるが、生体内で再プログラム化された細胞は、従来のシャーレの中で再プログラム化された細胞よりも、多数の細胞系統に分化できる能力を備えているらしい。

「細胞を体外で増殖させることも、培養細胞を体内に再移植することも必要ないので、再生療法の開発が加速する可能性があります」と、この研究には関与していない、ボストン小児病院(米国マサチューセッツ)の幹細胞研究者George Daleyは言う。

「この研究は、生体内再プログラム化の最先端にあります。シャーレの中で生理的な環境を作り出したり、培養細胞を体内に再移植して機能させたりすることは、実は簡単なことではありません」とDaley。

それもあって、体外に細胞を取り出すことや、細胞を胚の状態に戻す再プログラム化をしないで、ある系統の細胞を別の系統の細胞へと直接変換させる技術の開発が進められてきた。例えば、消化を助ける系統の成体膵外分泌細胞を、インスリン分泌細胞(β細胞)へと直接変換させる試みが成功したことが報告されている2。しかし、Daleyなどの一部の研究者は、特殊化したあらゆる成体細胞種を手に入れるためには、あくまでも生体内再プログラム化法が唯一の方法だと考えている。

素晴らしい可塑性

生きているマウスの体内で細胞を再プログラム化するために、スペイン国立がん研究センター(マドリード)のがん研究者Manuel Serranoが率いる研究チームは、培養系で人工多能性幹(iPS)細胞(成体細胞を再プログラム化して胚様の状態にした細胞)を作製するために使われる4つの遺伝子を一過性に発現する遺伝子改変マウスを作製した。この4つの遺伝子の発現は、マウスに抗生物質の一種のドキシサイクリンを投与することでオンにでき、投与量によって、発現量も制御できる。

ドキシサイクリンを多量に投与してこれらの遺伝子を高レベルで発現させると、マウスは短期間に死亡した。しかし、低レベルで発現させると、マウスには奇形腫が多数発生することが分かった。奇形腫は、内胚葉・中胚葉・外胚葉のそれぞれに由来する組織を含む腫瘍であり、このような腫瘍の発生は、細胞が再プログラム化されたことを示している。Serranoの研究チームは、この遺伝子改変マウスの血液中にiPS細胞が存在することも見いだしたのだ。

この遺伝子改変マウスから得られたiPS細胞をさらに解析すると、その遺伝子発現は、培養系で作製されたiPS細胞よりも、発生の初期段階の胚(桑実胚と呼ばれる)に観察される遺伝子発現パターンと極めてよく似ていることが分かった。また、この生体内で作製されたiPS細胞は、胎盤細胞の一種を形成することもできたし、一部のマウスの腹腔に胚様構造を形成することもできた。これらは、これまでの技術で作製された幹細胞では形成させることのできなかったものだ。このことから、今回の生体内で再プログラム化された細胞は、極めて高い再生能を持つことが示唆されるとDaleyは言う。「まるで全ての細胞が人体を完全に再生できる能力を秘めているかのようです」。

研究チームは、細胞が、腫瘍にならずに新しい系統の細胞としての特徴を獲得できるような中間的段階を探しているとSerranoは言う。

生体内で再プログラム化された細胞が、きちんと制御された方法で特定の系統の細胞へと誘導できることを示す必要もある。Serranoの研究チームは、どの細胞がこの技術に最も適しているか探している。そして最終的には、心臓やインスリン産生膵細胞を再生したいと考えている。「私たちは生体内において再プログラム化が可能であることを実証できました。次は、再生が可能であることを示さなければなりません」。

(翻訳:三谷祐貴子)

参考文献

  1. Abad, M. et al. Nature http://dx.doi.org/10.1038/nature12586 (2013).
  2. Zhou, Q., Brown, J., Kanarek, A., Rajagopal, J. & Melton, D. A. Nature 455, 627–632 (2008).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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