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絶対的な絶対温度を目指せ

世界で最も正確な温度計は、普通の温度計とは似ても似つかないものだ。それは大きめのメロンぐらいの銅製容器で、内部には超高純度のアルゴンガスが満たされ、マイクロホンとマイクロ波アンテナが配置してある。英国テディントンにある英国立物理学研究所(NPL)の構内に設置されたこの装置の目的は、単に温度を測定することではない。この種の装置によって、温度の概念を徹底的に見直し、基礎物理学の用語で温度を再定義しようとしているのだ。

ポイントは、物理定数を介して温度をエネルギーに関連付けることだ。温度の国際単位であるケルビンは、現在は、水の特性に基づいているが、科学者たちはこれを他の単位と同様、マクロ世界の気まぐれから解放されたものにしたいと考えている。現在、1秒はセシウム原子の振動によって定義され、1mは真空中の光の速度から定義されている。研究チームを率いるMichael de Podestaは「ケルビンが温度とエネルギーを直接関連付けていないことがおかしいのです」と言う。

NPLの装置はボルツマン定数を測定する。ボルツマン定数はエネルギーの変化を温度の変化に関連付けるものだ。de Podestaのチームやそのライバルたちは、この定数を十分に詳しく測定して、1ケルビン(K)を一定数ジュールのエネルギーと関連付けられるようにしたいと考えている。

この新しい温度計は専門的には「音響共振器」といい、ある振動数の音をマイクロホンに入力すると、ベルのように鳴る。この音響共振から、ガスで満たされた容器内の音速が特定でき、ひいてはアルゴン分子の平均速度、つまり分子の運動エネルギーが分かる。de Podestaのチームは7月、Metrologia誌にこれまでで最も正確なボルツマン定数の測定値を報告した。

現在の温度の定義は、水の相変化に基づいている。重要なのが氷と液体水と水蒸気が共存できる「三重点」で、温度は273.16Kだ。絶対零度と水の三重点との差の1/273.16を1Kと定義することが、1954年に国際的に合意された。

この1954年の定義は一般に問題なく通用するが、恒星の内部に見られるような極端な温度では行き詰まる。「こんなことになったのは、温度の測定が、温度の正体を知るずっと前、つまり、温度が原子や分子の運動に他ならないことを知るより前に、始まってしまったからです」とde Podestaは言う。「温度が何であるかがよく分かり、定義を修正する機会もあるのだから、そうすべきなのです」。

翻訳:鐘田和彦

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 11

DOI: 10.1038/ndigest.2013.131106b