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星間空間に達したボイジャー1号

Credit: JPL-Caltech/NASA

米航空宇宙局(NASA)が1977年に打ち上げた探査機ボイジャー1号は、2012年8月に太陽圏(太陽磁気圏)を出て、人類にとって未踏の領域である星間空間に入ったことが、このほど分かった。今回、アイオワ大学(米国アイオワシティー)の宇宙物理学者Don Gurnettが率いる研究チームが、それを強く裏付ける観測データを得て、2013年9月12日にScienceオンライン版に報告した1

太陽圏は、太陽から放出される荷電粒子(太陽風)の勢力範囲であり、太陽を取り囲む巨大な泡のようなものだ。ボイジャー計画チームの研究者の間では、ボイジャー1号は太陽圏を出たのかという論争が1年以上にわたって続いていたが、Gurnettらの報告でこの論争に終止符が打たれた。

カリフォルニア工科大学(パサデナ)の物理学者Ed Stoneは、「これは画期的なことです」と話す。Stoneは、ボイジャー打ち上げの5年前に当たる1972年からボイジャー1号と2号の計画責任科学者を務めてきた。「ボイジャー1号が星間空間に入ることは、人類史上において、初めての地球一周や、月に最初の一歩をしるしたことに匹敵する大きな出来事です」とStoneは話す。なおStoneは、今回の報告には加わっていない。

今回の結論は、ボイジャー1号が通過している空間の電離した気体(プラズマ)の電子密度の測定から導き出された。プラズマの電子密度は、温度の高い太陽圏の中よりも、低温の星間物質の中の方が約100倍高いと予測されている。そして、このプラズマの電子密度は、プラズマが振動する周波数によって正確に測定できる。

ボイジャー1号の観測データから、その周囲の電子密度が最近になって増加したことが分かり、Gurnettらは、その密度が予測された星間物質の密度に合致すると判断した。この事実と、ボイジャー1号のその他の観測データを考慮すると、同号は2012年8月25日頃、太陽圏を出たとみられる。そのとき、ボイジャー1号は太陽から121天文単位(180億 km)のところにいた。

アラバマ大学ハンツビル校の理論物理学者Gary Zankは、「これは決定的なデータです。ボイジャー1号が星間空間に出たことに疑いの余地はありません」と話す。

新たな任務へ

これまでのデータも、ボイジャー1号がすでに太陽圏を出たことを示唆していた。太陽系の中のものと考えられる比較的低エネルギーの宇宙線の量が減少し、太陽系の外から来る高エネルギー宇宙線が急激に増加していた。しかし、太陽圏を出たのであれば、ボイジャーの周囲の磁場の方向が変わると予測されていたが、磁場の方向の変化は観測されなかった。

Gurnettは、「今回の電子密度の測定結果で、研究者たちの論争は収まるはずです」と話す。研究チームは「私たちは幸運でした」と振り返る。「プラズマに振動を起こすためには何らかのエネルギー源がプラズマをかき乱さなければなりません。今回、偶然発生した太陽からの質量放出によってプラズマ振動が起こったのです」。

ただ、ボイジャーの観測結果について疑問は残っている。「磁場の方向に変化が見られない理由は、まだ分かっていません」とStoneは話す。彼は「太陽系の磁場と星間空間の磁場とが偶然同じ方向を向いているためかもしれません」と提案する。また、太陽圏とその外側の空間との境界は不明瞭である可能性もあるし、太陽風によって運ばれる磁場は、星間空間の磁場と何らかの未知の仕組みで関連しているという可能性もある。

Stoneは慎重に、「ボイジャー1号は太陽圏を出ましたが、太陽系を出たわけではありません」と言う。彗星のたまり場である「オールトの雲」は、太陽圏からはるかかなたの星間空間にあるが、それは太陽系の一部であり、太陽に重力で縛りつけられている。

ともあれ、ボイジャー1号が太陽圏を出たのは確かであり、「今後は新たな任務を果たすことになります」とStoneは話す。ボイジャー1号は、プルトニウム原子力電池を使い果たすと予想されている2025年頃まで、星間空間の磁場や宇宙線、物質密度などを調べることができる。ボイジャー2号は、現在は太陽から102天文単位(150億 km)のところにあり、こちらもあと数年で太陽圏を出て広大な星間空間に入るはずだ。

翻訳:新庄直樹、要約:編集部

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 11

DOI: 10.1038/ndigest.2013.131104

原文

Voyager 1 has reached interstellar space
  • Nature (2013-09-12) | DOI: 10.1038/nature.2013.13735

参考文献

  1. Gurnett, D. A., Kurth, W. S., Burlaga, L. F. & Ness, N. F. Science http://dx.doi.org/science.1241681 (2013).