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EUのバイオ燃料政策が変わる

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 10 | doi : 10.1038/ndigest.2013.131018

原文:Nature (2013-07-04) | doi: 10.1038/499013a | EU debates U-turn on biofuels policy

Richard Van Noorden

EUは、化石燃料に代わる輸送用燃料として積極的に導入を進めてきた バイオ燃料について、使用を抑制する方向へと舵を切りつつある。

バイオエタノール車は、欧州ではバイオディーゼル車ほど普及していないが、実はこちらの方が環境に優しい。

Credit: FABRICE COFFRINI/AFP/GETTY

温室効果ガスである二酸化炭素の排出量を削減するため、EUはこの10年間、ダイズやサトウキビのような食用作物に由来する輸送用燃料への支援策をとり、150億ユーロ(200億ドル)規模の産業を育ててきた。しかし科学者たちは、5年以上も前から、食用作物に由来するバイオ燃料の多くは、二酸化炭素排出量が化石燃料より多くなってしまう可能性を指摘してきた。

EUは今後、食用作物に由来するバイオ燃料の使用に上限を設ける方向へと舵を切る可能性がある。ただ、この動きは、工業、農業、エネルギー分野のロビー活動によって限定的なものになるかもしれない。この規制法案を審議する欧州議会環境委員会は2013年7月10日に採決を行うことになっていて、バイオ燃料の二酸化炭素排出量に関する新しい科学的知見をEUの方針にどれだけ反映させるかをめぐって緊張が高まっている。

欧州では、バイオ燃料の開発と使用を促進するため、2003年に「バイオ燃料指令」が定められた。2009年には2つの関連指令が制定され、2020年までに輸送用燃料のカーボンフットプリント(原料の調達から廃棄・リサイクルまで、商品の一生を通じて排出される二酸化炭素の量)を6%減らし、再生可能燃料が輸送用燃料に占める割合を10%に増やすことが要請された。今のバイオ燃料の二酸化炭素排出量が化石燃料より35%少ないか、2017年以降50%少なくすることができるなら、この要請を満たすことができる。既存のバイオ燃料の大半は食用作物に由来し、主にバイオディーゼルをベースとするバイオ燃料産業を成長させてきた。欧州は現在、需要に応えるために、ナタネ油や植物油を輸入までしている。

しかし、プリンストン大学(米国ニュージャージー州)の環境経済学者Tim Searchingerは、2008年に発表した影響力ある論文において、バイオ燃料の二酸化炭素排出量に関する当初の計算が完全に間違っていたことを指摘した(T. Searchinger et al. Science 319, 1238-1240; 2008)。彼の研究チームは、別の作物を栽培していた農地にバイオ燃料用作物が植えられる場合、元の作物を栽培するため、農地として利用されていなかった土地が新たに耕される可能性があることを見いだした。最終的には、大量の炭素を貯蔵する森林や泥炭地や湿地まで開墾されて、大量の二酸化炭素が排出される事態を招く恐れがある。

SOURCE: IFPRI

この「間接的土地利用変化(indirect land-use change:ILUC)」の影響は、10~20年先の行動を予測する経済モデルに基づいて計算しなければならないため、複雑である。その数値は作物の種類によって変わってくる(「二酸化炭素排出量規制をめぐる難問」参照)。けれども全体としては、ILUCの影響を考慮に入れると、ほとんどのバイオディーゼルの二酸化炭素排出量はバイオエタノールより多くなり、しばしば化石燃料よりも多くなることが分かっている。

国際食糧政策研究所(IFPRI、米国ワシントンD.C.)の研究者で、欧州委員会に大きな影響を及ぼす報告書を作成したDavid Labordeは、ILUCの影響は、欧州の再生可能エネルギー政策により2020年までに削減できるはずの二酸化炭素排出量の3分の2以上を相殺してしまうと指摘する。

米国環境保護庁(EPA)は、2010年に各種の燃料が再生可能エネルギーと呼べるかどうかを判断する基準を定めるに当たり、ILUCの影響を考慮に入れた。米国の農家にとっては幸運だったが、米国のバイオ燃料自動車の主要な燃料であるトウモロコシ由来エタノールは、EPAの基準に基づいて環境に優しい燃料であると認められた。

一方、欧州委員会は、バイオ燃料産業界と欧州のエネルギー部門と農業部門からの強硬な抵抗に遭い、この問題に手を付けるのを避け続けていた。しかし2012年10月、欧州委員会はついに、食用作物由来燃料が輸送用燃料に占める割合を2020年までに5%とし、再生可能エネルギー全体の目標である10%の半分に抑えることを提案した。これは、既存の施設のこれ以上の拡大を阻止しつつ、投資を回収できるようにする数字である。

「彼らは、問題を正しく理解したと思います。要するに、やめようということです」とSearchingerは言う。この提案では、バイオ燃料の選択に当たって、間接的土地利用変化(ILUC)の数値が用いられることはない。しかし、燃料の供給元が自社の燃料の二酸化炭素総排出量を報告する際には、IFPRIが公表するILUCの数値を考慮に入れなければならない。これは、欧州の輸送用燃料のカーボンフットプリントが、将来的には、ILUCの科学を取り入れたものになる可能性を示唆している。

欧州議会ではすでに、環境委員会からの提案をめぐる攻防が始まっている。6月20日にはエネルギー委員会で採決が行われ、食用作物由来燃料が輸送用燃料に占める割合の上限は、わずかに高い6.5%とされた。また、燃料の供給元がILUCの数値を使って二酸化炭素排出量を報告するという条項が削られ、その代わりに、食用作物を原料としない先進的なバイオ燃料の使用を段階的に増やすという指令が提案された。

英国再生可能エネルギー協会(ロンドン)の再生可能輸送政策部門を率いるClare Wennerは、「ILUCの科学は、EUの方針の裏付けになるほど強固なものではありません」と言う。しかし、欧州委員会共同研究センター(JRC、ベルギー・ブリュッセル)は、ILUCの数値の算出に用いられたモデルは、バイオ燃料からの二酸化炭素の直接排出量に関する広く受け入れられた科学と同じくらい確かなものであり、EUの方針にILUCの数値を考慮に入れるよう主張している。環境委員会は、2013年7月10日に、望ましい政策について採決を行う。この問題の交渉責任者であるCorinne LePageは、JRCの見解に賛成し、食用作物由来バイオ燃料の優劣を見極めるためにILUCの数値を考慮すべきだと主張している。しかし、彼女の期待どおりにいくかどうかは不透明だ。

攻防は続く。9月には、欧州議会本会議において、主に環境委員会とエネルギー委員会の勧告に基づき、この問題に関する採決が行われる。続いて、欧州各国のエネルギー担当大臣が、法律の制定について妥協点を探らなければならない。英国、オランダ、デンマークなどはILUCの影響を考慮するよう希望しているが、中・東欧諸国などは反対している。おそらく7月の採決の結果が議論の大筋を決めると考えられるが、2014年までなんの合意もなされない可能性もある。同年5月の欧州議会選挙により交渉が振り出しに戻ってしまうかもしれないからだ。「頭を壁にぶつけたくなるほど複雑な問題なのです」とWennerは言う。

(翻訳:三枝小夜子)

訳註:2013年7月11日、欧州議会環境委員会で採決が行われ、2020年までにバイオ燃料が輸送用燃料に占める割合に5.5%という上限を設け、バイオ燃料の二酸化炭素排出量を算出する際にILUCの影響を考慮する法案が可決された。

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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