Editorial

レーザー通信による宇宙探査機からのデータ伝送

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 10 | doi : 10.1038/ndigest.2013.131035

原文:Nature (2013-07-18) | doi: 10.1038/499254a | Light show

宇宙船からのデータ伝送速度の向上が求められており、レーザー通信技術への期待が高まっている。ただ、雲を避けてどう伝送するかなど、克服しなければならない課題が残っている。

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地球以外の惑星の画像が初めて地球に送られてきたとき、その伝送速度は、静脈への点滴くらい遅かった。1965年7月15日にマリナー4号探査機が火星付近を通過した際、小型のテレビカメラが作動し、縦横200ピクセルの火星表面の画像を合計22枚撮影した。その後、マリナー4号は、直径約1mの高利得パラボラアンテナを地球に向けて旋回させ、Sバンド(電波スペクトルの高周波帯の1つ)を用いて、毎秒33.33ビットの速さで画像の送信を開始した。これは、現代の広帯域インターネットの接続速度の、なんと100万分の1程度でしかなかった。

米航空宇宙局(NASA)ジェット推進研究所(カリフォルニア州パサデナ)のミッション科学者は、最初の画像を完全に受信して、コンピューター処理を終えるまで待ちきれず、画像1列分の画素をグレースケールで読み出した結果を印字した、細長いテープを次々と壁に貼り付け、クレヨンを使って、火星の荒涼とした地形の画像に手作業で色付けしていった。結局、全ての画像を地上で受信するまでに4日間を要した。

それ以降、惑星間通信は目覚ましく進歩し、データ送信に用いる周波数帯は、当初のSバンドからX、K、Kaとだんだんと高い周波数帯域に切り替わっていき、より多くの情報を詰め込めるようになった。2006年に火星の周回軌道に到達したマーズ・リコネッサンス・オービター(MRO)には、毎秒6メガビットで情報を伝送できるアンテナが装備されていた。

火星からのデータ伝送速度は、マリナー4号からMROまでの40年間に5桁以上も向上し、ほぼ2年ごとに倍増した。コンピューターの演算能力に関するムーアの法則は、チップ上のトランジスター密度の指数関数的増加を示したものだが、惑星間のデータ伝送についてもこの法則は当てはまっていたのだ。

それでも科学者は、より多くのデータを取得したいと望んでおり、今も壁にぶつかっている。例えばMROの場合、高解像度カメラなど、船内に設置されたデータ集約型機器の一部については、使用頻度を制限しているのが現状だ。こうしたボトルネックが、光通信を前に進める原動力となっているNature 2013年7月18日号266ページ参照)

今後数カ月間に、NASAと欧州宇宙機関(ESA)は、無線送信機ではなく、レーザーを用いる通信モジュールを備えた宇宙船を打ち上げることになっている。NASAが9月に打ち上げ予定なのが、月大気塵探査機のLADEEである。一方、ESAがすでに7月25日に打ち上げたのがAlphasatで、これは初の光通信衛星であり、他の人工衛星から多くの科学データを収集することになっている。

これらには2つの利点がある。第1に、レーザーの動作周波数帯が無線送信機よりも高いため、伝送できる情報量が多いことだ。第2に、無線送信機からの電波は伝播するにつれて拡散するが、レーザーは、細いビームに絞り込まれた状態を維持するため、低出力のレーザー送信機で同じ情報量を伝送できることだ。光通信の利用は、レーザーに対する過去の膨大な投資を利用できるということでもあり、小型化と高出力化の恩恵を受けることができる。

今後、これまでより高い帯域幅を利用する機器が開発されることは間違いないし、これによって一般市民も恩恵を受ける可能性が高い。NASAによるレーザー通信の実証実験は月から行われる予定だが、これによって高分解能データの伝送が実現すると言われている。月からの生中継で、フットボール選手の額に浮かぶ汗が見えるのと同じくらい鮮明な映像が見られることを想像してほしい。

その一方で、取り組まなければならない課題もある。レーザーは、雲の中での伝送効率が悪く、そのために光通信システムでは、最終的に地球上でデータを受信するために、地球を周回する無線中継衛星(あるいは雲のない砂漠に設置された受信機)を利用する必要があるかもしれない。しかし、パルス光によるネットワークを形成する数多くの宇宙船が太陽系を飛行し、惑星間インターネットが実現する日を想像することは、それほど難しいことではないと思われる。

(翻訳:菊川要)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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