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昆虫が草地の炭素吸収を増やす

炭素循環は地球上の生命体にとって不可欠だが、科学者たちはいまだにその複雑さを理解しきれていない。これまでに行われた研究のほとんどは、森林破壊や化石燃料の利用など、温室効果ガスである二酸化炭素の主要発生源に焦点を当てたものだった。

だが最近、植物と動物の相互作用など、一部の科学者がより目立たない要因を調べ始めている。今回、ある新しい研究から、直観に反した結果が導かれた。捕食動物と草食動物がいる場所に生えている植物の方が、それらがいなくて食べられたり踏みつぶされたりする可能性が少ない植物よりも、多くの炭素を蓄積するらしいのだ。

エール大学の生態学者Oswald Schmitzらは、植物界と動物界の相互作用を探るため、3つの草地環境を作って囲った。①草地の植生だけのもの、②そこに草食動物であるバッタを加えたもの、③バッタと肉食性のクモを加えたもの。この結果、草食動物と肉食動物の両方がいる3番目の環境の植物が、バッタだけがいる環境の植物よりも炭素を40%多く蓄積することが分かった。

環境③ではクモがバッタを食うので、バッタが自由勝手に草を食べている環境②に比べると植生が失われる量が抑えられ、植物により多くの炭素が蓄えられるだろうというのは、直観的に理解できる。だが驚いたことに、バッタとクモの両方がいる環境③の植物は、どちらもいない隔離環境①の植物より炭素の蓄積が20%多かったのだ。「草食動物も捕食動物もいない環境の植物で炭素蓄積量が最大になりそうですが、そうではないのです」とSchmitzは言う。彼はこの研究の共著論文を6月に米国科学アカデミー紀要に発表した。

予想外の影響

いったいなぜだろう? おそらく、草食動物にあちこちを少しずつかじられるという刺激が、植物に何らかの生理的な変化をもたらし、それが炭素の取り込みを増やすのではないかとSchmitzはみるが、「本当のところは分かりません」。

この研究は、生態学的変化が気候に対して予想外の影響を及ぼす可能性を示している。「現在、捕食動物の多様性は危機的なまでに損なわれています」とSchmitzは言う。「それは、炭素循環の調整に役立つ力を、私たちが失いつつあることを意味しているのかもしれません。もしそうなら、多くの木を育てるだけではすまない損失かもしれません」。

翻訳:鐘田和彦

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 10

DOI: 10.1038/ndigest.2013.131006b