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球状星団は、ブラックホールがいっぱい!?

私たちの住む銀河系(天の川銀河)にある球状星団M22は、星が密集した巨大な集まりで、100万個近い星を含んでいる。そのM22が自らの秘密を少しずつ明らかにし始めている。

ミシガン州立大学物理天文学科(米国イーストランシング)のJay Straderらは、今回、米国ニューメキシコ州にあるカール・ジャンスキー超大型干渉電波望遠鏡群で得られたM22の長時間露光電波望遠鏡画像を発表した。Nature 2012年10月4日号71ページに掲載された論文の画像(図1)には、これまで知られていなかった2つの電波源がとらえられている1。この電波源は、太陽の10~20倍の質量を持つ恒星質量ブラックホールの候補天体なのだ。M22のような巨大で古い銀河系星団でブラックホール候補が発見されたのは初めてのことである。さらに、今回、2つのブラックホールが見つかったこと、しかもそれが星団の中心部で見つかったことから、ブラックホール集団の動力学的な進化の一端が明らかになってきた。

図1:球状星団M22の長時間露光電波望遠鏡画像に映し出された2つの電波源

Credit: REF.1

ブラックホールの存在自体は、ほぼ1世紀前に理論的に予言されたが2、観測によってその証拠が得られるようになったのはここ30年にすぎない。ブラックホールそのものは暗いので、それを見つける唯一の方法は、その重力が周囲の物質に及ぼす影響をとらえることだ。そのためには、多くの場合、ブラックホールがもう1つの天体と連星系にあることが必要条件になる。つまり、その天体がブラックホールへ質量を移動させて(降着)、その際に大量のエネルギーをX線として放出しているか、あるいはその天体が十分に明るく、視線速度の測定が可能であることが必要だ。

しかし、今回の研究では、電波源をブラックホールであると解釈する主たる根拠を、観測された電波放出とX線放出との関係から導き出した。ブラックホールからの電波は通常、伴星からブラックホールに降着しているガス円盤の両側に出る、ガスのジェットから放射されていると考えられている(図2)。一方、X線放出は、このガス円盤の内側部分から生み出されており、ここでは、強い剪断流とガス乱流が原因で、ガスがX線を放出するほどの高温まで加熱されている。

図2:伴星から質量が降着するブラックホールの想像図
Straderらは、天の川銀河の球状星団の中で見つかった電波源の電波放出とX線放出を分析することにより、恒星質量ブラックホール候補を発見した1。電波は、伴星からブラックホールへ引きつけられるガス円盤の両側から発するジェットから放出される。一方、X線はこの円盤の内側部分から放射されると考えられている。

Credit: F. MIRABEL (CEA & INST. ASTRON. SPACE PHYS.)/CONICET ARGENTINA/ESA/NASA

ガスジェットと円盤との詳細な関係は、その大部分が未解明のままである。しかし、降着が起こっている恒星質量ブラックホールの観測から、降着速度が遅いときのX線放出と電波放出との関係が、すでに求められている3。それによると、X線光度が小さいと電波放出が優勢になる、という関係にある。重要なことは、観測も4理論研究も5、「電波放出のX線放出に対する大きさ(比)」が、ブラックホール質量とともに増加することを示していることだ。このため、恒星質量ブラックホールを検出するには、X線観測より電波観測が適している6

Straderらは、2つの電波源がチャンドラX線観測衛星によって検出されなかったことから、電波源のX線光度の上限が得られたとした。この上限と電波放出とを組み合わせると「電波放出のX線放出に対する大きさ(比)」の最小値が得られるが、その値はかなり大きかった。これは、2つの電波源が、いずれも太陽質量の10~20倍の恒星質量ブラックホールであることを示唆している。

電波源をブラックホールと解釈すれば、さまざまなことが納得できる。ブラックホールと考える根拠はほかにも独立したものがいくつかあるが、特に、電波源の場所が星団の中心に近いことが根拠になる。熱平衡にある自己重力系(すべての構成要素が系全体の複合した重力に保持されている系)では、系の中心からの天体の平均距離は、その天体の質量の関数となり、質量が大きいほど内側にある。M22の中心核が星団の年齢(120億年)と比較して短時間(3億年)で近似的に熱平衡に達したとすれば、2つの電波源の位置からブラックホールの質量を決定できる。Straderらはこの方法を使って、ブラックホールの質量は太陽の約15倍と推定した。これは、彼らがすでに見積もった太陽質量の10~20倍という数字と矛盾しない。

球状星団の中で降着している2つのブラックホールが発見されたことは、密度の高い星系の構造や動力学的進化を考えるうえで、新たな可能性を提示している。第一に、M22には2個を超えるブラックホールがあるのかもしれない。それらは単独で存在するか、あるいは、質量降着が起こっていない連星系の中にあるだろう。球状星団でブラックホールと白色矮星からなる連星系がどれだけできるかを理論的に計算したところ、100億年の時間をかけても、観測可能なガス降着を持つブラックホール・白色矮星連星系を形成するのは、星団に保持されたすべてのブラックホールのわずか2~40%であることがわかっている7。だから、M22で発見された電波源が白色矮星との連星系にあるなら、M22には100個ものブラックホールがある可能性がある。

第二に、多数の恒星質量ブラックホールを持つ星団のシミュレーションから、ブラックホール集団は星団の中心核をかなり拡大させることがわかっている8。これは主に、ブラックホールがほかのブラックホールと接近遭遇し、重力によって星団の中心核から外側の領域へ、頻繁に放り出されるために起こる。Straderらは、M22が明るい銀河系球状星団の中で5番目に大きな中心核を持っている理由は、この拡大のせいなのかもしれないとみている。

第三に、M22で2個の恒星質量ブラックホールが発見されたことは、何十年も信じられてきた仮説に疑問を投げかけている、とStraderらは指摘している。これが今回の発見の意義として最も重要なことかもしれない。その仮説とは、「ブラックホールの集団は、重力相互作用を通じて星団から急速に消え、典型的な年齢(1010年)の球状星団では、せいぜい1個のブラックホールか、連星系を構成する2個のブラックホールだけが残る」というものだ9–11。しかし、今回M22で発見されたブラックホールは、大きなブラックホール集団の一部である可能性がある。Straderらの結果は、これまで考えられていたよりも多くのブラックホールが星団に束縛されている可能性を示している。

もしも、多くのブラックホールが球状星団の中に保持されているなら、ブラックホールの合体によって放射される重力波の検出機会は多いはずだと考えるかもしれない。確かに、ブラックホールどうしが相互作用する割合が多くなり、その結果、ブラックホール・ブラックホール連星系の形成も増えるだろう。しかし、ブラックホール連星系が破壊される比率も同じように増加するので、全体としては、合体イベントの数は少なくなると考えられる12。このような予想は、いずれにせよ、将来の重力波探索によって検証され、Straderらの今回の発見の真の意味も、明らかになっていくだろう。

翻訳:新庄直樹

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 1

DOI: 10.1038/ndigest.2013.130128

原文

Two black holes found in a star cluster
  • Nature (2012-10-04) | DOI: 10.1038/490046a
  • Stefan Umbreit
  • Stefan Umbreitは、ノースウェスタン大学 (米国イリノイ州)の宇宙物理学学際調査研究センターと同大学物理天文学科に所属。

参考文献

  1. Strader, J., Chomiuk, L., Maccarone, T. J., Miller-Jones, J. C. A. & Seth, A. C. Nature 490, 71–73 (2012).
  2. Schwarzchild, K. Sber. K. Preuss. Akad. Wiss. 7, 189–196 (1916).
  3. Gallo, E., Fender, R. P. & Pooley, G. G. Mon. Not. R. Astron. Soc. 344, 60–72 (2003).
  4. Merloni, A., Heinz, S. & Di Matteo, T. Mon. Not. R. Astron. Soc. 345, 1057–1076 (2003).
  5. Heinz, S. & Sunyaev, R. A. Mon. Not. R. Astron. Soc. 343, L59–L64 (2003).
  6. Maccarone, T. J. Mon. Not. R. Astron. Soc. 360, L30–L34 (2005).
  7. Ivanova, N. et al. Astrophys. J. 717, 948–957 (2010).
  8. Mackey, A. D., Wilkinson, M. I., Davies, M. B. & Gilmore, G. F. Mon. Not. R. Astron. Soc. 386, 65–95 (2008).
  9. Kulkarni, S. R., Hut, P. & McMillan, S. Nature 364, 421–423 (1993).
  10. 10. Sigurdsson, S. & Hernquist, L. Nature 364, 423–425 (1993).
  11. 11. Kalogera, V., King, A. R. & Rasio, F. A. Astrophys. J. 601, L171–L174 (2004).
  12. 12. Downing, J. M. B., Benacquista, M. J., Giersz, M. & Spurzem, R. Mon. Not. R. Astron. Soc. 416, 133–147 (2011).