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マンハッタンに数学博物館

ニューヨーク州ロングアイランドにあった数学専門の小さな博物館「グドロー博物館」が数年前に閉館したとき、数学者でかつてはヘッジファンドのマネジャーだったGlen Whitneyは、非常にがっかりした。でもそこで彼は奮起した。数学博物館(MoMath ; The Museum of Mathematics)を自ら企画し、それが2012年12月、ニューヨーク・マンハッタンのフラットアイアン地区に開館する予定となったのだ。

「気づくかどうかは別にして、観客は一歩足を踏み入れた瞬間から、数学にどっぷり浸かることになります」とWhitneyは言う。博物館は楽しめるように設計されているが、真剣な目的もある。副館長のCindy Lawrenceが言うように、米国には数学に強い労働者が不十分なのだ。これは国家安全保障上の懸念にもなりかねない。例えば米国家安全保障局は、数学者にとって有力な就職先であり、そうした人材が諜報データの解析などを担っているのだ。子どもたちが将来、数学関連の職業に就くよう教育するのも、この博物館の使命の1つだとLawrenceは言う。

さまざまな体験型展示がここの特徴で、四角いタイヤの三輪車に乗って、子どもたちは、でこぼこの床をスムーズに動き回ることができる(床のでこぼこは、天地逆向きの懸垂曲線で作られている)。また、入館者を“フラクタルにして”映し出すビデオカメラもある。「ハイパー双曲面」という展示では、数学的な曲面に囲まれた空間内に座り、ダイヤル操作でこの面を変形させることができる。

WhitneyとLawrenceは、数学知識の豊富な人から乏しい人まで、さまざまな人々に、数学に対して興味を持ってもらいたいと願っており、そのための工夫もある。入館者はまず、コンピューターで自分の数学レベルを選択し、それがチケットに暗号として記録される。展示物ごとに備わっている別のコンピューターがこれを読み取り、選択レベルに応じた適切な説明を表示する仕組みになっているのだ。もっと深く学びたい人は、画面を手動でスクロールして、説明文をすべて読むこともできる。

この博物館は、数学の先生たちを支援する計画も持っている。小学4年生から中学2年生までの数学教員を対象に、優れた教育内容を顕彰する「ローゼンタール賞」を設け、受賞者に賞金を贈るほか、受賞者が使った優れた教材をほかの先生も利用できるようにする計画だ。

翻訳:鐘田和彦

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 1

DOI: 10.1038/ndigest.2013.130105a