News

わずか4.4光年先に、地球大の惑星!

その惑星はとても近い距離にあり、もしその惑星の住民が地球にやって来て、故郷に電話をかけたとしても、わずか4年で声が届く。今回、太陽に似た星(主系列星)の周囲を回る惑星としては、これまでで最も質量の小さい天体が発見された。しかも、この惑星は、私たちの太陽系に最も近い恒星系であるケンタウルス座アルファ星のB星の周りを回っているのだ。惑星の質量は地球にほぼ等しいが、親星との距離は太陽と水星の距離よりも近いので、残念ながら、この惑星は親星の熱に焼かれた不毛の岩の塊に違いない。それでも、天文学者たちはさらに生命に適した惑星を求めて、ケンタウルス座アルファ星系を探索している。地球との距離が約1.34パーセク(4.4光年)と近いことは、星間探査の夢もかきたてる。

この惑星を発見したのはスイスのジュネーブ大学付属ジュネーブ天文台の天文学者Francesco Pepeらで、2012年10月17日にNatureオンライン速報版に 論文が掲載された(X. Dumusque et al. Nature http://dx.doi.org/10.1038/nature11572; 2012。プリント版は2012年11月8日号207ページ)。Pepeは「これまでに見つかった中で、最も太陽系に近い太陽系外惑星です」と話す。

今回の発見は、昔からの惑星探索方法で得られた。つまり、地球から恒星の視線速度を観測し、恒星の周囲の軌道を回る惑星の重力によって引き起こされる「微妙な前後の揺れ」を探し出す。同じ方法で、ジュネーブ天文台の研究者たちは、1995年に主系列星を回る太陽系外惑星を初めて発見している(M. Mayor and D. Queloz Nature 378, 355-359; 1995)

このとき見つかった太陽系外惑星は、ペガサス座51番星bと呼ばれるガス巨星で、親星を引っ張って毎秒50mの速度で動かしていた。ケンタウルス座アルファ星Bの運動は、見つかった惑星が軽量であるため、その100分の1の毎秒50cmだった。ゆっくりした散歩程度の速さだ。研究チームがそれを検出できたのは、この方法の精度が着実に上がっていることを示している(「『軽い惑星』への挑戦」を参照)。

SOUCE: EXOPLANET.EU

Pepeらは、欧州南天天文台(ESO)のチリにあるラ・シヤ天文台の口径3.6m望遠鏡に装備した、高精度視線速度系外惑星探査装置(HARPS)という分光写真器を使い、南半球から見える最も明るい星と最も近い星10個を観測する計画の中でこの惑星を見つけた。観測した星のうち3つですでに惑星が見つかり、ケンタウルス座アルファ星系は4番目だった。研究チームは3年以上にわたって、ほぼ毎晩、一晩に3回、星の速度を測定し、検出限界のわずかに上にすぎなかったかすかな運動を検出することに成功した。

本当の地球の双子、つまり、太陽に似た星の周りを、地球の公転軌道半径に近い距離で回っている星を見つけるには、毎秒9cmの運動を検出できなければならず、感度をさらにもう一段階上げることが必要だろう。今のところ、太陽系外の地球を見つけるのは、この方法のライバルの惑星探索計画だろうと天文学者の多くは考えている。それは、米航空宇宙局(NASA)が打ち上げた宇宙望遠鏡ケプラーだ。

ケプラーは、惑星が親星の表面を横切るときに親星の光が暗くなる現象を探している。ケプラーの研究責任者(PI)である、NASAエイムズ研究センター(カリフォルニア州モフェットフィールド)のWilliam Boruckiは、「ケプラーは2009年に打ち上げられ、最初の2年間のデータで約3000個の太陽系外惑星候補が見つかりました」と話す。彼は2012年10月15日、米国ネバダ州リノで開かれた米国天文学会惑星科学分科会で最新の結果を発表した。

Boruckiによると、データはしだいに増えているが、親星から生命居住可能な距離にある地球大の惑星は、意外にも1つも見つかっていない。彼は地球大の惑星を持つ星はわずか10~15%であることを示すスライドを見せ、「地球大の惑星はできにくい傾向があり、もっと大きな惑星よりも珍しいのかもしれません」と話した。10~15%という数字は、これまでの見積もりよりもずっと少ない。

また、Boruckiは浮かぬ顔で「ケプラーは今、危うい状態にあります」と話した。ケプラーを目標に向け続けるために使 われる4つのリアクションホイールの1つが、2012年7月に故障したからだ。残りの3つのホイールのうち1つが故障したら、この計画は終わりを迎えることになる。

地球の双子のような惑星がケンタウルス座アルファ星系に隠れている可能性はあるが、ケンタウルス座アルファ星は実際には3つの恒星からなる(三重連星)。このうちA星とB星は太陽・土星間の距離と同じくらいの距離に近づくことがある。これは、探している惑星が今回HARPSチームが発見した惑星よりもはるかに遠くにある場合は、その軌道を混乱させる可能性はある。しかし、ケンタウルス座アルファ星Bの生命居住可能領域は、この星から地球と太陽の距離の半分ぐらい離れた辺りであり、その辺りを回る惑星の軌道はおそらく安定なはずだ。

カリフォルニア大学バークレー校の天文学者Geoff Marcyは別の地上からの惑星探索計画を率いている。Marcyは、「もしもケンタウルス座アルファ星Bで、親星から十分に離れていて、親星と分離して観測できる軌道に惑星が見つかれば、その惑星を直接撮影できる宇宙望遠鏡を打ち上げる必要性が出てくると思います」と話す。宇宙望遠鏡があれば、惑星の光のスペクトルを調べて大気組成の手がかりを得ることもできるかもしれない。

太陽系外惑星を直接撮影する宇宙望遠鏡計画でさえ、まだほとんど夢の段階なのだから、ケンタウルス座アルファ星まで飛んでいく星間探査機など、夢のまた夢だ。ジョンズホプキンス大学応用物理学研究所(米国メリーランド州ローレル)の惑星科学者Ralph McNuttは、「革新的な星間探査機」を設計するための研究費をNASAから受け取っている。探査機を地球で最も強力なロケットの1つで打ち上げ、木星の重力でスイングバイをして加速し、さらに放射性同位体エンジンで加速したとしても、ケンタウルス座アルファ星系に着くには、約2万8000年もかかる。McNuttは英国のSF作家ダグラス・アダムズの作品を引用した。「宇宙は広い。本当に広い」。

翻訳:新庄直樹

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 1

DOI: 10.1038/ndigest.2013.130106

原文

The exoplanet next door
  • Nature (2012-10-18) | DOI: 10.1038/490323a
  • Eric Hand