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ウイルス学:コロナウイルスの膜タンパク質を標的とする、ウイルス粒子形成阻害剤

Nature 640, 8058 doi: 10.1038/s41586-025-08773-x

コロナウイルスの膜(M)タンパク質は、コロナウイルスの組み立ての主要な推進役である。本論文で我々は、Mタンパク質を標的とする分子CIM-834が、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の粒子形成を阻害することについて報告する。CIM-834は、まずハイスループットな表現型スクリーニングを行って抗ウイルス活性を持つ化合物を探し、その後に医薬化学的手法で改良されて得られた。さらには作用標的の特定も行われた。CIM-834は、SARS-CoV-2(幅広い変異株を含む)と、さらにSARS-CoVの複製も阻害する。SARS-CoV-2を経鼻感染させたSCID(重症複合免疫不全)マウス、シリアンハムスターでは、CIM-834の経口投与により、肺のウイルス力価がほぼ検出不能なレベルにまで下がった。この低下は、(マウスで示されたように)経口投与が遅れて、エンドポイントの24時間前になった場合でも起こった。感染したハムスターに投与すると、投与していない個体への伝播を防ぐことができた。透過型電子顕微鏡で調べたところ、CIM-834を投与した細胞では、ウイルス粒子の形成が全く起こらないことが明らかになった。クライオ電子顕微鏡での単粒子解析により、CIM-834がショートフォームのMタンパク質に結合してショートフォームを安定化してしまうために、ウイルス粒子の形成に必要なロングフォームへの立体構造変化が抑制されることが明らかになった。このように我々は、コロナウイルスの複製サイクルにおいて、新たな創薬標的を明らかにし、さらにこの標的を強力に阻害する小型分子を発見した。

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