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疫学:同一の病原体塩基配列から得られたSARS-CoV-2の詳細な拡散パターン
Nature 640, 8057 doi: 10.1038/s41586-025-08637-4
病原体のゲノミクスは、感染症伝播の基盤となるパターンを理解する上で手掛かりとなり得るが、最新の大規模な病原体ゲノムデータセットを扱い、その可能性を最大に生かすためには新たな方法が必要である。特に、遺伝的な近さは疫学的なつながりを示しているため、遺伝的に近いウイルスは伝播事象に関して非常に有益な情報になるはずである。今回我々は、2021年3月〜2022年12月に米国ワシントン州のゲノム定点サーベイランスで集められた、11万4298例の重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)ゲノムとそれに関連付けされた年齢および居住地情報を用いて、同一塩基配列のペアに基づく詳細な伝播パターンの解析を行った。このうち5万9660の塩基配列については、データセット内に別の同一の塩基配列が存在する。同一配列のペアの場所は、移動や社会的接触のデータから予測されるものとよく一致していることが分かった。遺伝的データと移動データ間の関係における外れ値は、男性刑務所が所在する郵便番号の間のSARS-CoV-2伝播で説明可能であり、すなわち、刑務所施設間での伝播と一致している。年齢グループ間の伝播パターンは空間規模で異なっていることが明らかになった。さらに我々は、塩基配列収集のタイミングを用いて、伝播を引き起こす年齢グループを解明した。まとめると本研究は、大規模な病原体ゲノムデータセットを用いて、感染症拡散の決定因子を理解する能力を向上させるものである。

