Article

免疫学:武漢株に対するmRNAワクチンによる血清中和抗体のインプリンティング

Nature 630, 8018 doi: 10.1038/s41586-024-07539-1

免疫インプリンティングは、以前の抗原曝露の経験がその後の感染やワクチン接種に対する応答に影響を及ぼす現象である。変異株に対応させた重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)ワクチンをブースター(追加免疫)接種した後の血清抗体応答に、免疫インプリンティングが及ぼす影響はまだ明らかになっていない。今回我々は、マウス、およびヒトの臨床試験参加者で、mRNAワクチンブースター接種後の血清抗体応答の特性を調べた。マウスでは、武漢株(Wuhan-1株)のスパイクタンパク質をコードする前臨床型のmRNA-1273ワクチンの単回接種では、オミクロン株に対応させたブースター接種によって誘導される血清応答のインプリンティングはごくわずかなものであり、タイプ特異的な抗体産生が可能になった。しかし、mRNA-1273の2回のプライミング接種後にオミクロン株のブースター接種を受けたマウスではインプリンティングが観察され、この効果はオミクロン株ワクチンの2回目のブースター接種により減弱された。プロトタイプのmRNA-1273ワクチンを2回以上接種した後に、オミクロン株に対応させたブースター接種を2回受けたSARS-CoV-2の感染者および非感染者の両者で、スパイク結合性かつ中和活性のある血清抗体がオミクロン株、さらにはより遠縁のサルベコウイルスに対して交差反応を示した。オミクロン株や他のサルベコウイルスに対する血清中和反応は、Wuhan-1株のスパイクタンパク質で前処理した後には起こらなかったため、ヒトでのXBB.1.5ブースター接種により誘導される抗体は、先行のmRNA-1273のプライミング接種が標的とする保存されたエピトープへ収斂すると考えられる。このように、ヒトにおけるオミクロン株に基づいたブースター接種に対する抗体応答は、以前に接種したmRNA-1273ワクチンでの免疫感作によってインプリンティングされるが、それは、新たに出現するSARS-CoV-2変異株や遠縁のサルベコウイルスの感染を抑制する交差中和活性のある抗体の拡大を誘導するため、この結果は有益なものであるだろう。

目次へ戻る

プライバシーマーク制度