社会科学:COVID-19のパンデミックについての過去の回想は動機によって偏りが生じる
Nature 623, 7987 doi: 10.1038/s41586-023-06674-5
人々が重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)のパンデミック(世界的大流行)をどのように想起するかは、パンデミックへの備えと適切な政治的活動についての今後の社会的議論に重要になる可能性が高い。これまでの研究で、単なる忘却の他にも、強い動機や、認識の現状への固定によって、想起がゆがめられる可能性が示唆されている。今回我々は、11カ国にわたる4つの研究(合計n = 1万776)を用いて、認識されたリスク、制度への信頼、防御的行動についての想起が、現在の評価に強く影響を受けることを示す。ワクチン接種を受けた人も受けていない人もこの偏りの影響を受けたが、ワクチン接種を受けたか受けていないかという自身のワクチン接種状況を強く意識する人ほど、想起のゆがみが大きく、とりわけ逆のゆがみを示す傾向があった。偏った想起は、ありふれた想起エラーについての情報を提供したり、正確な想起に対する少額の金銭的インセンティブを提供したりしても減少しなかったが、高額の金銭的インセンティブによって部分的に減少した。従って、動機と自身の状況の認識が、過去の想起がゆがめられる方向性に影響を与えると考えられる。偏った想起はさらに、過去の政治的活動の評価、そして、将来のパンデミックの際の規則の遵守あるいは政治家や科学者に対する処分といった今後の行動意図と関係していた。総合するとこれらの知見は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックについての過去の回想は、動機によって偏りが生じており、社会の二極化を維持するとともに、今後のパンデミックへの備えに影響を与えることを示している。つまり、今後の対策では、当面の公衆衛生への影響だけでなく、社会の結束と信頼に対する長期的な結果にも目を向けなければならない。