Article

コロナウイルス:エイコサノイド・シグナル伝達の阻害は成熟マウスをCOVID-19の重症化から防ぐ

Nature , doi: 10.1038/s41586-022-04630-3

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は高齢者集団で特に重症化する。重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に対するワクチンは極めて有効であるが、ワクチンの有効性は、伝播性の高まったSARS-CoV-2変異株の出現でいくぶんか損なわれている。これらの変異株の出現によって、特に高齢者集団のための抗SARS-CoV-2治療薬の開発がさらに必要となっている。今回我々は、マウスへの馴化で病原性が高まったウイルスを分離し、それらを感染させた老齢マウスで新しい治療薬の有効性を検証した。マウスでの馴化過程でSARS-CoV-2に見いだされた変異の多く(スパイクタンパク質の417、484、493、498、501番目アミノ酸残基の変異)は、ヒトの懸念される変異株でも起きている。これらの変異がマウスでの馴化中に出現したことは、淘汰には免疫圧が必要でないことを示している。マウスの重症急性呼吸器症候群(SARS)でもその重症度は年齢依存的であり、老齢マウスでの転帰不良には、エイコサノイドの1つであるプロスタグランジンD2(PGD2)やこれに関連するホスホリパーゼであるグループ2DホスホリパーゼA2(PLA2G2D)の高値が関与している。ヒト末梢血単核細胞由来の樹状細胞でも、PLA2G2DとプロスタグランジンD2受容体(PTGDR)のmRNAの発現やPGD2の産生が、加齢とともに、またSARS-CoV-2感染後に増加する。我々は、PTGDRやPLA2G2Dの欠損は、マウス馴化SARS-CoV-2を感染させた成熟マウスを重症化から保護し、さらにPTGDRアンタゴニストであるアサピプラントの投与は、老齢マウスを致死性の感染から保護することを示す。以上の結果は、PTGDRの拮抗が、特に老齢マウスを保護するためにSARS-CoV-2感染マウスで最初にとるべき介入の1つであり、PLA2G2D–PGD2/PTGDR経路が治療介入の有用な標的であることを示唆している。

目次へ戻る

プライバシーマーク制度