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コロナウイルス:遊動性のオジロジカにおけるSARS-CoV-2感染

Nature 602, 7897 doi: 10.1038/s41586-021-04353-x

重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)は、ヒトからさまざまな動物に伝播してきたが、自然界での新しい動物リザーバーの確立は観察されていない。今回我々は、遊動性のオジロジカ(Odocoileus virginianus)がSARS-CoV-2感染に高感受性であること、ヒトから複数のSARS-CoV-2変異株に曝露されていること、自然界で伝播を維持できることを報告する。我々は、2021年1~3月に米国オハイオ州北東部でオジロジカから採取した鼻腔スワブ(ぬぐい液)について、リアルタイム逆転写PCRを行い、その3分の1以上(360試料のうち129試料;35.8%)でSARS-CoV-2を検出した。6つの区域のオジロジカで、SARS-CoV-2の3系統(B.1.2、B.1.582、B.1.596)の感染が見られた。当時オハイオ州においてヒトで優勢だったB.1.2ウイルスは、4つの区域のオジロジカで感染が見られた。我々は、B.1.2、B.1.582、B.1.596のウイルスについて、シカ間での伝播と見られる感染例を検出した。こうした伝播によってウイルスは、スパイクタンパク質(受容体結合ドメインを含む)およびORF1のアミノ酸置換を獲得できたと考えられる。これらの置換がヒトで観察されるのはまれである。シカからヒトへの再伝播は観察されなかったが、これらの知見は、SARS-CoV-2が米国の野生生物に伝播していることを実証しており、この伝播は新しい進化経路を開く可能性がある。環境とオジロジカや他の野生生物宿主を世界的に監視するための、包括的な「ワンヘルス(One Health)」プログラムの確立が緊急に必要とされている。

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