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コロナウイルス:ヒトにおけるBNT162b2 mRNAワクチンのシステムワクチン学

Nature 596, 7872 doi: 10.1038/s41586-021-03791-x

重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の出現から1年未満で、2種類のmRNAワクチンの緊急使用が認可されたことは、ワクチン学における画期的な出来事である。しかし、mRNAワクチンが免疫系を刺激して防御性の免疫応答を誘導する仕組みは明らかになっていない。今回我々は、システムワクチン学の方法を用いて、ファイザー–バイオンテック社のmRNAワクチン(BNT162b2)を接種した56人の健常ボランティアにおいて、自然免疫応答と適応免疫応答の包括的なプロファイリングを行った。その結果、ワクチン接種によって、野生型SARS-CoV-2(2019-nCOV/USA_WA1/2020由来)に対してはロバストに、またB.1.351変異株に対してはそれより程度の低い中和抗体の産生が引き起こされ、2回目接種後には、抗原特異的な多機能性のCD4+とCD8 + T細胞が有意に増加することが分かった。追加免疫接種は、初回ワクチン接種に比べて自然免疫応答を著しく増強し、その証拠としては、(1)CD14+CD16+炎症性単球の割合の増加、(2)血漿IFNγ濃度の上昇、(3)抗ウイルス自然免疫に関する転写シグネチャーが挙げられる。これらの観察結果と一致して、我々の単一細胞トランスクリプトミクス解析では、2回目免疫後、インターフェロン応答に関わる転写因子を多く発現し、AP-1転写因子が減少している骨髄系細胞集団の割合が、およそ100倍に増加することが明らかとなった。さらに我々は、CD8+ T細胞や中和抗体応答に関わる異なった自然免疫経路を特定し、また単球に関連するシグネチャーがB.1.351変異株に対する中和抗体応答に相関していることを示す。まとめると、これらのデータによって、mRNAワクチンの接種により誘導される免疫応答の理解が深まり、このワクチンには、自然免疫系をプライミングし、追加免疫後により強力な応答を引き起こす能力があることが明らかになった。

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