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コロナウイルス:SARS-CoV-2は多面的な戦略を使って宿主タンパク質の合成を阻害する

Nature 594, 7862 doi: 10.1038/s41586-021-03610-3

重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)は、現在進行中の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)の原因である。コロナウイルス類は、宿主mRNAの翻訳を抑制してウイルスのmRNAの翻訳を可能にすると同時に、細胞の自然免疫応答を阻害するために、さまざまな機構を作り出してきた。SARS-CoV-2のいくつかの異なるタンパク質が宿主の発現の遮断に関わっていることが以前示されたが、SARS-CoV-2感染が細胞の遺伝子発現に及ぼす影響の全体像はまだ示されていない。今回我々は、RNA塩基配列解読、リボソームプロファイリング、新しく合成されるRNAの代謝標識化を組み合わせて、SARS-CoV-2が細胞のタンパク質合成を遮断するために用いている機構を包括的に明らかにする。感染は翻訳を全体的に減少させるが、ウイルスの転写産物が優先的に翻訳されるわけではないことが分かった。そうではなく、感染が細胞質ゾル中の細胞由来mRNAの分解を促進して、感染細胞のmRNAプールの、ウイルスによる乗っ取りを促進することが見いだされた。また、感染への応答として誘導される転写産物(自然免疫に関わる遺伝子など)の翻訳が障害されることが明らかになった。この障害は、おそらくmRNAの核外輸送の阻害を介して起こり、これが、新たに転写された細胞内mRNAがリボソームへ近づくのを妨げていることが実証された。まとめると我々の結果は、SARS-CoV-2が翻訳機構を乗っ取り、宿主防御を抑制するために用いる多面的な戦略を示している。

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