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コロナウイルス:TMEM16タンパク質を阻害する薬剤はSARS-CoV-2スパイクが誘導するシンシチウム形成を妨げる

Nature 594, 7861 doi: 10.1038/s41586-021-03491-6

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、肺血栓症、頻回の下痢、炎症応答の異常な活性化、肺胞水腫と合致した肺機能の急速な悪化など、固有の特徴を有する疾患である。これらの知見に関わる病理学的基盤はまだ明らかにされていない。今回我々は、COVID-19患者の肺には、異常な形態と高頻度の多核化を伴う感染した肺細胞が含まれることを示す。こうしたシンシチウムの発生は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)スパイクタンパク質の細胞膜レベルでの活性化によって起こる。我々は、これらの観察に基づいて、スパイクによって生じたシンシチウムの阻害剤を探索するために、3000を超える承認薬を用いてハイコンテント顕微鏡による2つのスクリーニングを行った。その結果、スパイクを介した細胞融合を阻害する薬剤が83に絞り込まれ、そのいくつかは明確な薬理学的分類に属していた。我々は、ウイルス複製および関連する細胞変性を防ぐ効果のある薬剤に着目した。最も効果的な分子の1つは抗寄生虫薬のニクロサミドであり、これはTMEM16F(別名anoctamin 6;カルシウムによって活性化されるイオンチャネルで、細胞表面でのホスファチジルセリンの露出を担うスクランブラーゼ)の活性を抑制することによって、スパイクを発現している細胞でカルシウム振動と膜コンダクタンスを顕著に阻害した。これらの知見は、COVID-19疾患発症に対する潜在的な機構を示唆し、またニクロサミドの治療へのリポジショニングを支持している。

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