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コロナウイルス:慢性感染の治療中におけるSARS-CoV-2の進化

Nature 592, 7853 doi: 10.1038/s41586-021-03291-y

重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)のスパイクタンパク質は、ヒトACE2タンパク質との結合を介したウイルス感染に重要であり、主要な抗体標的である。今回我々は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の回復期血漿で治療した免疫抑制患者1例において、101日間の23の時点で全ゲノム超高深度塩基配列データを作成し、塩基配列解読から見つかった変異の特性を調べるin vitro技術を使うことで、SARS-CoV-2による慢性感染がウイルスの進化を引き起こし、回復期血漿で治療した免疫抑制患者で中和抗体に対する感受性を低下させることを示す。最初の57日間、レムデシビルを2コース投与した後のウイルス集団の全体的な構造には、ほとんど変化がなかった。しかし、回復期血漿療法後、そのウイルス集団では大規模で動的な変化が観察され、スパイクタンパク質S2サブユニットの置換(D796H)と、S1のN末端ドメインに欠失(ΔH69/ΔV70)を有する優勢なウイルス株が出現した。受動的に移入した血清抗体が減少するにつれ、この回避遺伝型ウイルスは、頻度は低下したものの、回復期血漿療法の最終コース中に再出現して治療は失敗に終わった。in vitroで、ΔH69/ΔV70とD796Hの両方を持つスパイク二重変異株では、回復期血漿に対する感受性がわずかに減少したが、感染力は野生型ウイルスと同等のレベルが維持されていた。スパイク置換変異D796Hは、中和抗体に対する感受性を低下させる主な原因のようであるが、この変異は感染力の低下を引き起こした。スパイク欠失変異であるΔH69/ΔV70の感染力は野生型SARS-CoV-2のレベルよりも2倍高く、おそらくD796H変異による感染力の低下を相殺していると思われる。これらの結果は、回復期血漿療法中にSARS-CoV-2に強力な選択が働くことを明らかにしている。これは、免疫抑制患者で中和抗体に対する感受性低下の証拠を示すウイルス変異株が出現することと関連している。

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