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原子物理学:反水素原子のレーザー冷却

Nature 592, 7852 doi: 10.1038/s41586-021-03289-6

光子は電磁場の量子励起であり、質量は持たないが、運動量は担っている。従って光子は、物体との衝突時にその物体に力を及ぼすことができる。そうした力を原子やイオンに加えてそれらの並進運動を減速させることはレーザー冷却と呼ばれており、これは40年前に初めて実証された。この技術は、その後数十年にわたって原子物理学に変革をもたらし、現在では、量子縮退ガス、量子情報、原子時計、基礎物理学の検証に関する研究など、多くの分野に大きく貢献している。しかし、この技術はまだ反物質には適用されていない。今回我々は、反陽子と陽電子からなる反物質原子である反水素のレーザー冷却を実証する。我々は、パルス状の狭線幅ライマンαレーザー放射で反水素の1S–2P遷移を励起することで、磁気的に捕捉された反水素の試料をドップラー冷却した。レーザー冷却を適用したのは一次元方向のみだが、捕捉によって反原子の縦方向と横方向の運動が結合される結果、三次元方向の全てで冷却が生じる。我々は、横方向エネルギーの中央値が1桁以上低下し、かなりの割合の反原子の横方向の運動エネルギーが1 μeV未満になっていることを観測した。我々はまた、レーザー冷却された反水素原子の試料において、レーザーによって駆動された1S–2S遷移を観測したことも報告する。観測されたスペクトル線は、レーザー冷却せずに得られたスペクトル線の約4分の1に狭まっていた。今回のレーザー冷却の実証とその速やかな応用は、反物質研究に幅広い影響を及ぼすだろう。反水素試料のさらなる局在化・高密度化・低温化によって、現在進められている実験における反水素の分光学的研究や重力研究が著しく改善されると考えられる。さらに、レーザー光によって反物質原子の運動を操作する能力が実証されたことで、反原子泉、反原子干渉法、反物質分子の生成など、将来の実験に革新的な機会がもたらされる可能性がある。

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