SARS-CoV-2:フリン切断部位の欠失はSARS-CoV-2の病原性を減弱させる
Nature 591, 7849 doi: 10.1038/s41586-021-03237-4
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)は、パンデミック(世界的大流行)を引き起こした新型コロナウイルスであり、他のグループ2Bコロナウイルスには存在しないフリン切断部位(PRRAR)をそのスパイクタンパク質内に有している。フリン切断部位が、このウイルスの感染や病原性に関与するか調べるために、我々はフリン切断部位を欠損したSARS-CoV-2(ΔPRRA)変異株を作製した。今回我々は、ΔPRRA SARS-CoV-2の複製を調べると、親株のSARS-CoV-2と比較して、Vero E6細胞でより速い動態を示し、E6細胞での適応度が高く、スパイクタンパク質のプロセシングは低下していることを示す。一方で、ΔPRRA変異株はヒト呼吸器細胞株での複製が低下し、SARS-CoV-2発症モデルであるハムスターやK18-hACE2トランスジェニックマウスにおいて弱毒化されていた。ΔPRRA変異株感染は、症状は軽いものの、親株のSARS-CoV-2の再チャレンジに対して防御効果を示した。重要なことに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者由来の血清やSARS-CoV-2の受容体結合ドメインに対するモノクローナル抗体の中和価は、親株のSARS-CoV-2よりもΔPRRA変異株に対して低かった。これはおそらく、ΔPRRA変異株の感染ではプラーク形成単位に対するウイルス粒子数の割合が高いためであろう。まとめると我々の結果は、SARS-CoV-2感染におけるフリン切断部位の重要な役割を実証しており、抗体の中和活性を評価する上でこの切断部位が重要であることを明確に示している。