免疫学:SARS-CoV-2中和抗体の構造から導かれた治療戦略
Nature 588, 7839 doi: 10.1038/s41586-020-2852-1
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは重大な健康危機をもたらしている。重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)のスパイクタンパク質の宿主ACE2受容体結合ドメイン(RBD)を標的とするヒト中和抗体は、治療に有望と考えられていて、臨床で評価中である。今回我々は、SARS-CoV-2中和の構造との相関を明らかにする目的で、SARS-CoV-2スパイク三量体またはRBDと複合体を形成した異なるCOVID-19ヒト中和抗体8つの新しい構造を明らかにした。構造の比較から、抗体は以下の4つのクラスに分類された。すなわち、(1)VH3-53遺伝子セグメントにコードされ、短いCDRH3ループを持つ中和抗体で、ACE2を阻害し、「上向き」のRBDのみに結合するもの、(2)ACE2阻害中和抗体で、上向きと「下向き」のRBDの両方に結合し、近接するRBDと接触できるもの、(3)ACE2結合部位の外に結合する中和抗体で、上向きと下向きのRBDの両方を認識するもの、(4)以前に報告された中和抗体で、ACE2を阻害せず、上向きのRBDのみに結合するもの、である。クラス2はRBDを架橋するエピトープを持つ4つの中和抗体を含んでおり、その中には、疎水性の先端を持つ長いCDRH3を使って近接する下向きRBDの間を架橋することでスパイクを閉じたコンホメーションに固定するVH3-53抗体が含まれる。エピトープとパラトープのマッピングから、宿主由来のN-グリカンとの相互作用はほとんどなく、エピトープとの接触には抗体の体細胞超変異が少し関わっていることが明らかになった。親和性測定および天然に生じたスパイク変異とin vitroで選択されたスパイク変異の3Dマッピングからは、感染中に誘導された抗体、あるいは治療で送達された抗体をSARS-CoV-2が回避する可能性についての手掛かりが得られた。このような分類と構造解析により、既知のヒトRBD標的抗体およびこれから得られる同様の抗体をクラス分けし、アビディティーの効果を評価し、臨床利用のための組み合わせを知る規則が与えられ、SARS-CoV-2に対する免疫反応についての知見が得られる。