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コロナウイルス:パパイン様プロテアーゼはSARS-CoV-2のウイルス拡散と自然免疫を調節する

Nature 587, 7835 doi: 10.1038/s41586-020-2601-5

パパイン様プロテアーゼであるPLproはコロナウイルスが持つ必須の酵素で、機能的なレプリカーゼ複合体を作り、ウイルス拡散を可能にするためのウイルスポリプロテインのプロセシングに必要である。PLproはまた、宿主の抗ウイルス免疫応答に対する回避機構として、宿主タンパク質に対するタンパク質性の翻訳後修飾の切断にも関わっている。今回我々は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)のPLpro(SCoV2-PLpro)の生化学的、構造的、機能的な特性について調べ、宿主のインターフェロン経路とNK-κB経路の調節におけるSCoV2-PLproとSARS-CoVのPLpro(SCoV-PLpro)との違いについて概説する。SCoV2-PLproとSCoV-PLproは83%の配列同一性を持つが、宿主の基質選択性が異なっており、SCoV2-PLproがユビキチン様ISG15(interferon-stimulated gene 15)タンパク質を選択的に切断するのに対し、SCoV-PLproはユビキチン鎖を主に標的としている。ISG15と複合体を形成したSCoV2-PLproの結晶構造解析によって、ISG15のアミノ末端のユビキチン様ドメインとの独特な相互作用が明らかとなり、これらの相互作用の高い親和性と特異性が示された。さらに、SCoV2-PLproは感染時に、IRF3(interferon responsive factor 3)からのISG15の切断に関与し、I型インターフェロン応答を減弱させた。注目すべきことに、感染細胞においてSCoV2-PLproをGRL-0617で阻害すると、ウイルスによって誘導される細胞変性効果が抑制され、抗ウイルスインターフェロン経路が維持されて、ウイルス複製が減少した。これらの結果は、SCoV2-PLproの標的化はSARS-CoV-2感染を抑制し、かつ抗ウイルス免疫を促進するという、2つの側面を併せ持つ有望な治療戦略であることを示している。

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