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構造生物学:SARS-CoV-2から得られたMproの構造とその阻害剤の発見

Nature 582, 7811 doi: 10.1038/s41586-020-2223-y

重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)として知られる新規コロナウイルスは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)として2019〜2020年にウイルス性肺炎アウトブレイク(集団発生)を引き起こした病原体である。現在この疾患の治療に使われる標的治療薬はなく、効果的な治療選択肢は非常に限られている。今回我々は、臨床で使うことのできる薬剤のリード化合物の迅速な発見を目的として、構造支援型の薬剤設計とバーチャル薬剤スクリーニングおよびハイスループットスクリーニングを組み合わせて用いたプログラムの結果について報告する。このプログラムは、SARS-CoV-2のメインプロテアーゼ(Mpro)を標的とする薬剤のリード化合物の特定に主眼を置いたものである。Mproはコロナウイルスの重要な酵素で、ウイルスの複製と転写を仲介する極めて重要な役割を担っているため、SARS-CoV-2の薬剤標的として関心を集めている。我々は、コンピュータ支援薬剤設計により反応機構をベースとした阻害剤(N3)を見つけ出し、この化合物と複合体を形成したSARS-CoV-2のMproの結晶構造を決定した。構造ベースのハイスループットなバーチャルスクリーニングにより、我々は承認薬、臨床試験中の薬剤候補や薬理学的活性を持つその他の化合物など1万種を超える化合物について、Mproの阻害剤としての評価分析を行った。これらの化合物のうち6つがMproを阻害し、50%阻害濃度の範囲は0.67〜21.4 μMだった。これらの化合物の1つ(ebselen)は、細胞を用いた解析で有望な抗ウイルス活性も示した。我々の結果は、今回のスクリーニング戦略の有効性を実証するものであり、この戦略は特異的に働く薬剤やワクチンがない新規の感染性疾患に対応して、臨床使用の可能性がある薬剤リード化合物を迅速に発見することにつながる可能性がある。

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