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疫学:入院したCOVID-19患者のウイルス学的評価

Nature 581, 7809 doi: 10.1038/s41586-020-2196-x

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、2019年の年末に出現した急性の気道感染症である。中国での当初の複数のアウトブレイク(集団発生)では、症例の13.8%が重症(severe course)、6.1%が重篤(critical course)であった。こうした深刻な症状は、主に肺で発現するウイルス受容体を使うウイルスによって引き起こされたと考えられる。2003年に発生した重症急性呼吸器症候群(SARS)では、これと同じ受容体指向性がその病原性を決定したが、感染制御の助けともなったと考えられている。しかし、COVID-19では、患者が軽い上気道症状を示したとする症例報告が複数あり、これは、症状出現前あるいは症状が乏しい時期に伝播が起こっている可能性を示唆している。体の特定の部位でのウイルス複製や免疫、感染性についての情報を得ることは喫緊の課題である。本論文では、上気道組織で活発なウイルス複製が起こったことの証明となるCOVID-19の9症例の詳細なウイルス学的解析について報告する。咽頭からのウイルス排出は、発症1週目に非常に盛んであり、4日目にピークに達し咽頭スワブ1検体当たりのRNAコピー数は7.11 × 108個だった。感染性のウイルスは、咽頭や肺から得られた検体から容易に単離されたが、糞便検体からは、ウイルスRNAの濃度が高いにもかかわらず単離されなかった。血液および尿の検体からウイルスが得られたことはなかった。咽頭での活発なウイルス複製は、咽頭検体中にウイルスRNA複製中間体が存在したことによって確認された。1人の患者の咽頭および肺の検体では塩基配列の異なる複数のウイルス集団が一貫して検出され、ウイルス複製が互いに無関係に行われていることが示された。喀痰からのウイルスRNAの排出は、症状の消失後も持続した。セロコンバージョンは、患者の50%で7日目以降に起こり、14日目までには全ての患者で見られるようになったが、それに続くウイルス負荷の急激な低下は見られなかった。COVID-19は、症状の軽い上気道疾患として起こる可能性がある。上気道での活発なウイルス複製が確認されたことは、COVID-19の封じ込めに密接に関係する。

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