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構造生物学:SARS-CoV-2による受容体認識の構造基盤
Nature 581, 7807 doi: 10.1038/s41586-020-2179-y
SARS(重症急性呼吸器症候群)コロナウイルス(SARS-CoV)に似た新規なコロナウイルスSARS-CoV-2が最近出現し、ヒトの間で急速に広がってCOVID-19を引き起こしている。今回のパンデミックに取り組むのに重要なのは、ウイルスの感染力、発症機序や宿主域を調節している受容体認識機構の解明である。SARS-CoV-2とSARS-CoVは、ヒトではアンギオテンシン変換酵素2(ACE2)という同じ受容体を認識する。今回我々は、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質(結晶化を促進するために改変されている)の受容体結合ドメイン(RBD)について、ACE2と複合体を形成した状態の結晶構造を決定した。SARS-CoVのRBDと比較すると、SARS-CoV-2 RBD中のACE2と結合する隆起部分はよりコンパクトなコンホメーションをとっている。また、SARS-CoV-2 RBD中の複数の残基が変化していて、それによってRBDとACE2の接触面にある2つのウイルス結合ホットスポットが安定化されていることが分かった。このような構造的特徴により、SARS-CoV-2 RBDのACE2結合親和性が増大している。さらに、SARS-CoV-2と近縁のRaTG13(コウモリのコロナウイルス)もヒトACE2を受容体として使っていることが分かった。SARS-CoV-2とSARS-CoV、RaTG13のACE2認識における差異は、SARS-CoV-2が動物からヒトへと伝播した可能性を明らかにしている。我々の研究は、SARS-CoV-2による受容体認識を標的とする介入戦略に対する指針を示すものだ。