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ウイルス学:中国のヒト呼吸器疾患に関連する新しいコロナウイルス
Nature 579, 7798 doi: 10.1038/s41586-020-2008-3
重症急性呼吸器症候群(SARS)やジカウイルス感染症などの新興感染症は、公衆衛生にとって大きな脅威である。精力的な研究の取り組みにもかかわらず、新しい疾患が、いつ、どこで、どのように出現するか分からないことが、大きな不確実性の原因となっている。最近、中国湖北省武漢で重篤な呼吸器疾患が報告された。2019年12月12日に最初の患者が入院してから、2020年1月25日の時点で少なくとも1975例が報告されている。疫学調査では、この集団発生は武漢の海鮮市場に関連があることが示唆されている。今回我々は、この海鮮市場で働いていて、発熱、めまい、咳を含む重症の呼吸症候群に罹患し、2019年12月26日に武漢中央病院に入院した1人の患者についての研究を報告する。この患者の気管支肺胞洗浄液試料のメタゲノムRNA塩基配列解読から、コロナウイルス科(Coronaviridae)の新しいRNAウイルス株が特定され、今回「WH-Human 1」コロナウイルスと名付けた(「2019-nCoV」とも呼ばれる)。完全なウイルスゲノム(2万9903ヌクレオチド)の系統発生解析から、このウイルスは、これまでに中国のコウモリに見つかっているSARS様コロナウイルスのグループ(ベータコロナウイルス属、Sarbecovirus亜属)に最も近縁(ヌクレオチド類似性89.1%)であった。この集団発生は、ウイルスが動物から波及してヒトで重篤な疾患を引き起こす能力を保持していることを浮き彫りにしている。