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腫瘍遺伝学:がん種横断的全ゲノム解析

Nature 578, 7793 doi: 10.1038/s41586-020-1969-6

がんは遺伝的変化によって引き起こされる疾患であるが、大量並行塩基配列解読法の出現により、全ゲノム規模でこの遺伝的変動の系統的な記述が可能になってきた。今回我々は、国際がんゲノムコンソーシアム(ICGC;International Cancer Genome Consortium)およびがんゲノムアトラス(TCGA;The Cancer Genome Atlas)におけるがん種横断的全ゲノム解析(PCAWG;Pan-Cancer Analysis of Whole Genomes)コンソーシアムによって収集された38種類のがんにわたる2658例のがん組織とそれらに対応する正常組織の全ゲノムを対象とした統合解析について報告する。また、クラウド計算機を用いる国際的なデータ共有によって促進された、PCAWG研究資源の作成についても記載する。がんゲノムには、タンパク質コード領域および非コード領域を合わせて平均して4~5個のドライバー変異が含まれていた。しかし、全体の約5%ではドライバー変異が特定されず、これは、がんドライバーの発見がまだ完了していないことを示唆している。単一の破壊的事象によって多くの染色体構造バリアントが局所的に集中して発生するクロモスリプシス(染色体粉砕)は、しばしば腫瘍進化の初期事象として認められ、例えば末端性黒色腫では、これらの事象はほとんどの体細胞点変異より先に起こり、いくつかのがん関連遺伝子に同時に影響を及ぼすことが分かった。テロメアの維持異常を伴うがんは、複製活性が低い組織から生じることが多く、テロメアの臨界レベルまでの短縮を防ぐいくつかの分子機構を呈した。さらに、生殖細胞系列バリアントは、高頻度あるいはまれなバリアントのいずれも、点変異、染色体構造バリアント、レトロトランスポゾン転位など、体細胞変異のパターンに影響を及ぼすことが分かった。PCAWGコンソーシアムの一連の論文では、以下のような新たな発見や解析が報告されている。それは、TERTプロモーターにおける非コード領域変異以外にも、少数ではあるががんを引き起こす非コード領域変異があること、塩基置換、小さな挿入や欠失、染色体構造の多様性を引き起こす変異誘発過程における新しいシグネチャーの同定、腫瘍進化のタイミングやパターンの解析、スプライシング・発現レベル・融合遺伝子・プロモーター活性といった点において体細胞変異が転写に及ぼすさまざまな影響、がんゲノムのより特異的で多様な特徴の評価などである。

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