Letter

素粒子物理学:反水素における1S–2Pライマンα遷移の観測

Nature 561, 7722 doi: 10.1038/s41586-018-0435-1

1906年にセオドア・ライマンは、原子水素スペクトルの極端紫外線領域に彼の名前を冠した遷移系列を発見した。この水素スペクトルのパターンは、量子力学という、今では原子スケールの世界を支配することが知られている新たな理論の確立に役立った。以来、ライマンα線(波長121.6 nmの1S–2P遷移)が関与する研究は、宇宙における最も基本的な原子遷移の1つとして、物理学と天文学で重要な役割を果たしてきた。例えば、この遷移は長い間、さまざまな赤方偏移での吸収線のいわゆる「ライマンαの森」を通して、天文学者が銀河間物質を研究したり、宇宙論モデルを検証したりするのに使われてきた。本論文では、水素の反物質である反水素原子のライマンα遷移の観測結果について報告する。狭線幅のナノ秒パルスレーザー光を使って、磁気的に捕捉した反水素の1S–2P遷移を励起した。1.033テスラの磁場での遷移周波数は2,466,051.7 ± 0.12 GHz(1σの不確かさ)と決定され、水素についての予測と5 × 10−8の精度で一致した。反水素の特性と、よく調べられている水素の特性との比較から、物質と反物質の間の基本的な対称性の精密な検証が可能になる。反水素で最近観測された基底状態の超微細遷移と1S–2S遷移とともに、このライマンα遷移によって反水素のレーザー冷却が可能になるため、精密分光や重力測定のための低温で密度の高い反原子の試料が得られる。この基本遷移が観測されたことに加えて、今回の研究は、反水素のレーザー冷却に向けた決定的な技術的段階であるとともに、反物質分光法を軌道角運動量を持つ量子状態へ拡張するものである。

目次へ戻る

プライバシーマーク制度