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物理学:トラップした反水素における1S–2S遷移の観測

Nature 541, 7638 doi: 10.1038/nature21040

水素原子のスペクトルは、過去200年にわたって基礎物理学において中心的な役割を果たしてきた。その重要性を示す歴史的な例には、フラウンホーファーによる太陽スペクトルの吸収線の波長測定、バルマーやライマンなどによる遷移線の同定、リュードベリによる許容波長の経験的な記述、ボーアの量子モデル、遷移周波数を高精度に予測する量子電磁力学の能力、そして最近ではHänsch による1S–2S遷移の10−15の数倍の精度での測定が含まれる。近年の技術の進展により、水素の反物質である反水素に集中的に取り組むことができるようになった。標準理論は、ビッグバン後の原始の宇宙には等量の物質と反物質が存在したと予測するが、今日の宇宙はほとんど全て通常の物質で構成されているのが観測されている。これが、反物質を研究して、これら2種類の物質を支配する物理法則に小さい非対称性が存在するかどうかを確かめようとする動機になっている。特に、標準理論の要となるCPT(荷電共役変換、パリティ変換、時間反転)定理は、水素と反水素が同じスペクトルを持つことを要請する。本論文では、磁気的にトラップした反水素原子の1S–2S遷移を観測したことを報告する。243 nmのレーザーからの2個の光子によって生じたこの遷移の周波数が決定され、これは同じ環境中の水素原子で予測される周波数と一致した。この反物質原子の量子状態のレーザー励起は、反原子で行われた測定では最も精度が高いものである。今回の結果は、約2 × 10 −10の相対精度でCPT不変性と一致する。

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