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集団遺伝学:ケネウィックマンの系統と類縁関係

Nature 523, 7561 doi: 10.1038/nature14625

「ケネウィックマン」は、アメリカ先住民からは「Ancient One(古代の人)」と呼ばれている、1996年に米国ワシントン州で発見された男性の骨格で、当初その年代は放射性炭素年代測定法で8340~9200年前(較正年代)とされた。ケネウィックマンがどの人類集団と類似性があるかは、科学的議論および法的論争の対象となってきた。太平洋岸北西部の「プラトー」地域に暮らすアメリカ先住民5部族は、この骨格が自分たちの祖先のものであると主張し、アメリカ先住民墓地保護・返還法(NAGPRA)に基づいて返還を求めたが、頭蓋形態に関する当初の研究では、ケネウィックマンはアメリカ先住民でもなければ、プラトー諸部族に近縁でもないという結論が導かれた。この形態分析は、「ケネウィックマンはアメリカ先住民ではなく、従ってNAGPRAは適用されない」という司法判断を下す上で、非常に重要なものとなった。そのため、ケネウィックマンの骨格はアメリカ先住民に返還されず、さらなる研究が認められた。その後の頭蓋計測分析からは、ケネウィックマンは、現代のアメリカ先住民よりもアイヌ民族やポリネシア人などの環太平洋集団の方に近縁であるという、以前の結果を肯定する結果が得られている。我々は、ケネウィックマンの系統と類縁関係を明らかにするため、そのゲノムの塩基配列を約1倍のカバー率で解読し、アイヌ民族およびポリネシア人を含む全世界のゲノムデータと比較した。その結果、ケネウィックマンは世界のあらゆる人類集団の中で現代のアメリカ先住民に最も近縁であることが分かった。比較解析に利用可能な全ゲノムデータが存在するアメリカ先住民集団の中のいくつかは、ケネウィックマンの属した集団に近縁な集団に由来するようであり、それらの先住民集団には、ケネウィックマンの返還を要求した5部族の1つであるコルビル居留地部族連合(コルビル族)も含まれていた。過去の頭蓋分析研究を再検討したところ、全ゲノムの比較解析とは対照的に、頭蓋分析に基づいてケネウィックマンを特定の現代人集団と関連付けることはできないことが分かった。これにより、遺伝学的比較解析の結果に基づいて、ケネウィックマンと北米先住民との間には過去8000年以上にわたる連続性が認められるという結論に至った。

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