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生理:海生動物プランクトンの走光性の仕組み

Nature 456, 7220 doi: 10.1038/nature07590

動物の眼で最も単純なのは、1個の光受容体細胞と1個の遮光性色素細胞という2個の細胞だけからなる眼点である。眼点は、ダーウィンが考えた「原始の眼」という概念、すなわち動物の進化において初めて出現したとされる眼を想起させる。眼点は像を結ぶことはできないが、動物は眼点によって光の方向を知ることができる。眼点は海生無脊椎動物の幼生の動物プランクトンに特徴的にみられ、幼生が光の方向へ泳ぐのには眼点がかかわっていると考えられている。海生プランクトンの鉛直移動は地球上で最大のバイオマス移動と考えられているが、この移動が生じる一因は、無脊椎動物幼生の走光性である。このように、生態学的にもまた進化の面からも重要であるにもかかわらず、眼点が走光性を調節する仕組みはほとんど解明されていない。本論文では、モデルとして海生の環形動物Platynereis dumeriliiを用い、単純な構造の眼点が海生動物プランクトンの光に向かう移動をどのように調節しているのかを明らかにする。1個の眼点に選択的に光を照射すると、コリン作動性神経の直接支配によって周辺の繊毛の動きが変化し、その結果、局所的に水流が減少する。幼生の泳ぎのコンピューターシミュレーションによって、らせん状の遊泳軌道を光に向かわせるには、このような局所的な作用だけで十分なことがわかった。また、このコンピューターモデルから、走光性には幼生の体の軸回転が不可欠であることと、らせん状の動きが進路決定の精度を高めていることもわかった。これらの結果は、海生動物プランクトンの走光性の仕組みを、我々の知るかぎりで初めて解明したものであり、単純な眼点がどのように走光性を制御しているかを示している。この仕組みの基盤となる光の感知と繊毛運動制御との直接的な結びつきは原始の眼の重要な特徴であり、このような結びつきは動物の眼の進化における画期的な出来事だったと考えられる。

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