A型インフルエンザウイルスのM2タンパク質はpH依存性プロトンチャネルで、エンドソーム内に取り込まれたウイルス粒子の内部を酸性にする働きを担う。M2は抗インフルエンザ薬アマンタジン、リマンタジンの標的であるが、最近、ヒト、鳥、ブタにおけるこれらの薬剤に対する耐性は90%以上に達している。今回我々は、このホモ4量体チャネルの膜貫通領域の結晶構造を、チャネル遮断薬であるアマンタジンが存在する状態と存在しない状態で明らかにした。pHに依存した構造変化は、プロトンの通過にかかわる良く保存されたHisとTrp残基のところで起こる。薬剤結合部位に並ぶのは、アマンタジン耐性ウイルスで変異している残基群である。アマンタジンの結合はチャネル孔を物理的にふさぐ働きをしており、また重要な働きをするHis残基のpKaを変化させる働きもあるかもしれない。この構造は、M2チャネル遮断薬の耐性問題解決の出発点になるだろう。
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