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35億年前の超好熱性メタン菌が、窒素固定を行っていたことを確認!

2014年7月10日

西澤 学
海洋研究開発機構 海洋地球生命史研究分野 研究員

約40億年前に誕生したとされる生物は、深海の熱水噴出孔に生息する原核生物(古細菌と真正細菌)で、孔から噴出する水素や二酸化炭素などを使って有機物を作り出していたと考えられている。海洋研究開発機構 海洋地球生命史研究分野の西澤 学 研究員らは、メタン生成古細菌が炭酸固定だけでなく、窒素固定も行っていた可能性が高いことを突き止めた。

今回の解析に用いた超高熱性メタン菌(上)と、生命進化の系統樹(下)。 | 拡大する

生物の体は、タンパク質やDNAなどの窒素化合物から構成されている。そのため、環境中にある窒素化合物の同化は生物にとって極めて重要だが、一部の例外を除き、生物は大気主成分である窒素分子を直接取り込むことができない。ヒトを含む多くの生物は、窒素固定能を持つ原核生物(藍藻や根粒菌など)が窒素分子から作り出すアンモニアと、それに由来する窒素化合物を利用しているのである。

このことは、窒素分子からアンモニアを合成する原核生物が40億年前にはすでに存在していたことを示唆するが、深海の熱水孔において、どのような種の原核生物が窒素固定していたのかはよく分かっていなかった。「窒素固定を担うニトロゲナーゼ酵素を進化系統学的に検討することで、原始的な超好熱性メタン菌が窒素固定も行っていたのではないかとの仮説がありましたが、証明するには至っていませんでした」と西澤研究員は話す。

今回、西澤研究員らは、この仮説を検証するために「中央インド洋海嶺かいれい熱水フィールド」に赴いた。「水深2450メートルにあるこのフィールドは、地球初期の熱水生態系の特徴を色濃く残しています。私たちは、高温熱水噴出孔の中に培養器を吊り下げ、数日間放置した後に回収し、合わせて噴出孔(チムニー)の一部も採取しました」と話す。培養器からは「85℃でよく増殖する超好熱性メタン菌」が分離され、チムニー外縁部からは「55℃でよく増殖する好熱性メタン菌」が分離されたという。

得られた2株を対象に、まず、リボソームRNA遺伝子の系統解析を行ったところ、どちらの株も、世界各地の深海熱水環境で得られる代表的なメタン菌の系統に属することが分かった。その上で、これらのメタン菌が窒素分子や他の窒素化合物を同化できるかどうかを調べた。「仮説どおり、2株とも窒素分子を同化できることが分かりました。これらの株は、その他にアンモニアも同化できましたが、硝酸は同化できませんでした」と西澤研究員。

次に、窒素固定のための酵素について調べたところ、好熱性メタン菌は「活性部位にモリブデンを含むニトロゲナーゼ」を持つことが初めて分かった。「さらに私たちは、超好熱性メタン菌が、モリブデンと鉄の幅広い条件下において、窒素固定可能なことも突き止めました。原始海水はモリブデンに乏しく、鉄に富んでいたと考えられているので、初期の熱水環境においては超好熱性メタン菌が窒素固定していたと推測されます」と西澤研究員。

さらに、「2株とも窒素固定速度は熱水の化学組成によらず一定で、その固定能は海洋光合成細菌(藍藻)よりも約10倍も高いこと」、「窒素固定能を持つ超好熱性メタン菌が35億年前に存在した場合に予測される(細胞の)窒素同位体比が、当時の深海熱水性岩脈に保存されたメタン菌由来有機物の窒素同位体比と一致すること」なども確かめたという。

一連の結果は、35億年前の深海熱水環境にいた超好熱性メタン菌が窒素固定を行い、最初期のアンモニア供給源になっていたことを強く示している。この後、同様の窒素固定システムが光合成細菌にも備わり、海洋の表層部でも窒素化合物が供給されるようになるが、光合成細菌が窒素固定能力を獲得したプロセスはよく分かっていない。「深海と海洋表層は物理的に隔離されているので、窒素固定に関わる遺伝子が伝播したとは考えにくい。遺伝子伝播は地球初期の熱水環境においてメタン菌と光合成細菌の祖先の間で生じ、その後に海洋表層へ進出した光合成細菌には誕生当初から窒素固定能が備わっていたのではないか」。そう考える西澤研究員は、始源的な光合成細菌の窒素固定能についても検証し、光合成生態系の誕生と拡大の原理を探ることで、生命が繁栄した要因に迫りたいと意気込んでいる。

西村尚子 サイエンスライター

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