Nature Physics Research Highlights
「量子」とは何か?
量子論は、20世紀における成功にもかかわらず、例えば相対性理論を特徴付けているような明確な公理的基盤がまだない。しかし、「情報因果律」の原理を導入したM Pawlowskiらによる研究が、その一助となる可能性がある。この原理は将来、量子力学全体の基盤となる基本原理としての地位を得るかもしれないのである。
量子力学には際立った特徴がいくつかある。空間的に離れた2人の観測者による測定の相関が、古典的に許容されている相関よりも強くなりうるとする非局所性もその1つである。非局所性は実験的に確認できるが、ノーシグナリング原理(光速を超える速度での情報伝達は不可能とする原理)を守り、「一般的な量子」挙動も示すさまざまな種類のほかの非物理理論も存在する。これらの理論では、量子力学が提示する相関よりもさらに強い相関が可能になる。
しかし、他者から古典ビットを受信した際に得ることができる情報量を規定する情報因果律原理は、量子力学とほかのノーシグナリング理論を区別できる。Pawlowskiらによれば、彼らのモデルは古典物理と量子物理では守られるが、量子相関よりも強い相関を示す理論では守られない。
グラフェンを用いた光検出器
グラフェン中の電荷担体の最大速度は、光速のわずか数百分の1である。グラフェンの実用化に関する研究の多くにおいて、グラフェンベースのコンピューターチップの構築に必要なダイオードやトランジスタなどの高速電子デバイスの開発に重点が置かれているのは、このためであろう。しかし、グラフェンが役立つ可能性があるのはエレクトロニクスだけではない。F Xiaらは、今までにない動作周波数を達成できる光検出器も、グラフェンを用いて作製できる可能性があることを示した。
従来のフォトダイオードでは、ダイオード内部で生成される光誘起電子正孔対を、再結合する前に確実に分離するのに、大きな外部バイアス電圧が必要となる。グラフェンでは、電荷担体が高速なため、極めて低い電圧で電子正孔対を効率的に分離できることを、Xiaらは示した。実際に、グラフェンと金属電極の接点で発生する内部電場でも十分であることがわかった。Xiaらは、光を検出するグラフェントランジスタが周波数40 GHzまで動作することを実証した。今回開発したデバイスの構造を最適化して速度を制限する外部要因を最小にすれば、500 GHzを超える周波数での動作も達成できる、とXiaらは考えている。
波に乗る
超伝導の特徴の1つに、散逸しないで電流が流れることが挙げられる。しかし1960年代以降、常伝導の金属リングが永久電流を維持できる可能性があることが理論的に予測されてきた。一般的に、磁場の存在下で一次元リング内を移動する電子の場合、各円軌道は周期ポテンシャル内の1周期に等しくなる(M. Büttiker et al. Phys. Lett. A 96, 365-367; 1983)。この電流は、リングを通る磁束Φによって決定される波数ベクトルkをもつ。残念ながら、マイクロメートルサイズのリングの場合、1 K以下ではこの電流は1 nAである。この永久電流の明確な測定が、A C Bleszynski-Jayichらによって今回初めて行われた。
Bleszynski-Jayichらは、マイクロカンチレバーにアルミニウムのリングを設置し、アルミニウムの超伝導性を除去するのに十分な強度の磁場を印加した。カンチレバーの共振周波数を変化させることにより、Φ = h/eで決まる周期をもつ電流を検出した。このマイクロメカニカル検出器は、SQUIDベースの検出器よりも感度が数桁優れており、多体効果の研究に使用できる可能性がある。
ジェットを選り分ける
超対称性が、大型ハドロン衝突型加速器(LHC)による最初の発見の1つとなるかもしれない。グルーイノは、ボーズ粒子であるグルーオンの超対称パートナーとなるフェルミ粒子で、陽子–陽子衝突によって生成される可能性がある超対称性粒子の1つである。しかし、いわゆる初期状態放射のために、LHCの巨大検出器におけるグルーイノの飛跡があいまいになる可能性がある。J Alwallらは、この問題の解決策を提案している。
衝突によって生成されるグルーイノ対は、検出器において「ジェット」パターンを作り出すと考えられる。各グルーイノは崩壊して、クオーク対と別の超素粒子であるニュートラリーノに変わる。その後、各クオークは衝突点から吹き出す素粒子のジェットを形成するが、ニュートラリーノは検出されずに逃れてしまう。
しかし、入射陽子から放射されるグルーオン(初期状態放射)も、検出器本体でジェットを生成する可能性がある。典型的な乱雑な飛跡の中から、実際に計測対象のグルーイノから発生したジェットを選び出すには、どうすればよいのだろうか。Alwallらは、この事象で観測される横運動量と不足分の横運動量を考慮に入れた既存の「横質量」変数を使用するアルゴリズムを考案した。
高調波の明滅
粗い金属表面は、電磁場を増強できる。これを応用したのが表面増強ラマン散乱で、単一分子やナノ粒子が発する蛍光の増強に使われる。この放射は、断続的にオンとオフに切り替わることがある。今回N Borysらは、二次高調波放射においても同様の時間ゆらぎを観察した。
Borysらの実験では、銀薄膜上の銀ナノ粒子に、入射赤外光(波長1,070 nm)を散乱させた。非線形光学過程により二次高調波の放射光(波長約535 nm)が発生し、粗い表面によって増強された。
複数のナノスケールの光源から放射される光で、明滅が観測された。このような放射光は実際の電子状態間の遷移を伴うことから、この明滅は理解できる。しかし、非線形散乱の明滅は予測されていなかった。現段階では、その根本的なメカニズムは完全には解明されていない。しかしBorysらは、ナノ粒子の光学特性を変えているのは帯電である可能性があると示唆している。
