Practice Point

閉経後のホルモン療法は尿失禁を引き起こすか?

原論文

Steinauer JE et al. (2005) Postmenopausal hormone therapy: does it cause incontinence? Obstet Gynecol 106: 940–945

PRACTICE POINT(診療のポイント)

閉経後女性に対する尿失禁の治療法として、経口エストロゲン療法と経口エストロゲン+プロゲスチン併用療法はいずれも勧められない

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SYNOPSIS(概要)

BACKGROUND(背景)

ホルモン療法は閉経後尿失禁の治療に広く利用されているが、いくつかの無作為化対照試験では、ホルモン療法にプラスの効果はなく症状を悪化させる可能性さえあることが示されている。失禁のない女性では、ホルモン療法によって尿失禁のリスクが高まることが指摘されている。

OBJECTIVES(目的)

ホルモン療法が尿失禁のリスクに及ぼす影響を検討すること。

DESIGN AND INTERVENTION(デザインと介入)

本研究は、Heart Estrogen/Progestin Replacement Study(HERS)のサブグループ解析であった。このHERSは無作為化プラセボ対照二重盲検試験であり、冠動脈性心疾患を有し子宮がある80歳未満の閉経後女性を対象に、心疾患イベント予防におけるホルモン療法の効果が評価された。被験者募集は1993年1月~1994年9月に行われた。対象は無作為に2群に割り付けられ、1群には結合型エストロゲン(0.625mg)+酢酸メドロキシプロゲステロン(2.5mg)、もう1群にはプラセボが連日経口投与された。対象全員が、試験開始前に失禁に関する質問票の全項目に回答した。試験開始前の1週間に失禁はなかったと報告した女性を選択し、本解析の対象とした。4カ月後と、その後は年1回で4年間、失禁について再評価した。

OUTCOME MEASURES(評価項目)

主要エンドポイントは、4年間の追跡調査期間に少なくとも1回、毎週の失禁(週1回以上)を報告した女性の割合とした。推定リスクと、毎回の追跡診察ごとに失禁を報告する女性の累積割合についても検討した。

RESULTS(結果)

HERS参加者2,763例のうち、1,208例は試験開始前に尿禁制が保たれ、1回以上の追跡診察で尿失禁に関するデータが得られた。このうち597例(49%)はホルモン療法群、611例(51%)はプラセボ群であった。4年間の治療期間に、毎週の失禁を報告した女性は、ホルモン療法群382例(64%)、プラセボ群302例(49%)であった(P≦0.001)。ホルモン療法群ではプラセボ群に比べて、毎週の切迫性尿失禁(48%対36%、P<0.001)および毎週の腹圧性尿失禁(54%対38%、P<0.001)を報告した女性の割合が高かった。群間差は4カ月後に検出され、追跡調査期間を通じて続いた。治療の影響は年齢やBMIと無関係であった。continuation-ratioモデルでは、ホルモン療法群の女性はプラセボ群の女性と比べて、切迫性尿失禁を報告する確率が50%高く(オッズ比[OR]1.5、95%CI 1.2~1.8、P<0.001)、また腹圧性尿失禁を報告する確率が70%高かった(OR 1.7、95%CI 1.5~2.1、P<0.001)。60歳未満の女性(184例)では、毎週の失禁のリスクに有意な増加は認められなかった(OR 1.31、95%CI 0.85~2.04、P=0.23)。4年間の治療後に、ホルモン療法がもたらすいずれかのタイプの毎週の失禁、毎週の切迫性尿失禁、毎週の腹圧性尿失禁の過剰リスクは、それぞれ15%、12%、16%であった。また副作用発現必要症例数(NNH)はそれぞれ6.9、8.6、5.9であった。失禁が確認された女性のうち23%は、少なくとも1回の追跡診察で、週4回以上の失禁があると報告していた。

CONCLUSION(結論)

心疾患のある閉経後女性において、エストロゲン+プロゲスチンの経口投与によるホルモン療法は、切迫性尿失禁および腹圧性尿失禁のリスクを増加させた。

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COMMENTARY(解説)

Rolando Rivera and Angelo Gousse

閉経後の失禁に対する治療法は、ここ数年にわたって広範な学際的議論や研究の主題となっている。Steinauerらが報告したHERSからの最近のデータは、この主題に新たな情報を提供している。

閉経後女性は40%近くが失禁を経験する1。複数の研究で、尿生殖路全体にエストロゲン受容体が存在することが証明されており、長年、エストロゲン補充療法は閉経後の尿禁制に有益であると主張されてきた2。エストロゲンは尿道の血流を増加させ、-アドレナリン受容体の感受性を高め、尿道閉鎖圧を上昇させる。

Steinauerらは、HERS参加者のサブセットを対象にした解析について報告している。HERSは、心疾患が確認された女性を対象に、さらなる心血管イベントの予防として結合型エストロゲン(0.625mg)+酢酸メドロキシプロゲステロン(2.5mg)連日経口投与の効果を検討した、無作為化プラセボ対照二重盲検試験であった。試験対象は子宮がある80歳未満の閉経後女性であった。HERSプロトコールの一環として、試験開始前の1週間に腹圧性または切迫性の尿失禁を経験したかどうかを参加者に尋ねた。失禁はなかったと報告した女性が、Steinauerらの解析の対象として選ばれた。尿禁制の再評価は、最初の4カ月後の診察時と、その後年1回のペースで行った。追跡診察前の1週間に失禁があったと報告した女性を、毎週の失禁を有する例とした。HERSに組み入れられた女性2,763例のうち、試験開始前に失禁がなかったのは1,208例であった。このうち597例(49%)がホルモン療法群、611例(51%)がプラセボ群に無作為に割り付けられた。4年間の治療期間に、毎週の失禁を報告した女性の割合は、ホルモン療法群64%、プラセボ群49%であった(P<0.001)。切迫性尿失禁が認められた女性の割合は、ホルモン療法群48%、プラセボ群36%であった(P<0.001)。腹圧性尿失禁を報告した女性の割合は、ホルモン療法群54%、プラセボ群38%であった(P<0.001)。

経口エストロゲン/プロゲスチン補充療法を受けている女性では失禁の発生率が高まることが、この研究で証明されている。別の研究でも同様の結果が得られている。そのような研究の1つがWomen’s Health Initiativeである3。この大規模無作為化対照試験では、50~79歳の女性25,000例以上を対象に、エストロゲン+プロゲスチンの使用とエストロゲンの単独使用が評価された。この試験でも、ホルモン療法群の女性は、プラセボ群の女性に比べ、1年後および3年後の時点で、尿失禁の発生率が高いことが証明された。

これらの観察結果の病態生理は、いまだにはっきりとしない。エストロゲンは尿道周囲組織において総コラーゲン濃度を低下させ、コラーゲンの架橋を減らし、コラーゲンの代謝回転を促進する4。さらに、エストロゲンは膀胱壁においてコラーゲン量を減少させ、平滑筋線維の量を増加させる―これらの変化は、膀胱の収縮能と静止張力の上昇に関連する。Steinauerらは、コラーゲン量の減少が脆弱な尿道支持の一因となり、膀胱圧の上昇とあいまって失禁を引き起こす可能性があると理論づけている。

経口エストロゲン補充療法と尿禁制に関するデータはすでに存在する一方、局所エストロゲン療法が及ぼす影響についてはほとんど知られていないことを覚えておくことが重要である。エストロゲンの栄養作用、とくに尿道の接合(coaptation)を促進する尿道粘膜と粘膜下の海綿状血管層に対する作用は、閉経後女性における主要な尿禁制機構ではない可能性がある。今回の研究では、これまでの考えとは逆に、とくに閉経後女性においてはホルモン療法を尿失禁の治療法として用いるべきではないというエビデンスが明らかにされている。

References

  1. Mallett VT (2005) Female urinary incontinence: what the epidemiologic data tell us. Int J Fertil Womens Med 50: 12–17  | PubMed |
  2. Matsubara S et al. (2002) Estrogen levels influence beta-3-adrenoreceptor-mediated relaxation of female rat detrusor muscle. Urology 59: 621–625  | Article | PubMed | ISI |
  3. Hendrix SL et al. (2005) Effects of estrogen with and without progestin on urinary incontinence. JAMA 293: 935–948  | Article | PubMed | ChemPort |
  4. Jackson S et al. (2002) The effect of oestradiol on vaginal collagen metabolism in postmenopausal women with genuine stress incontinence. BJOG 109: 339–344  | PubMed | ChemPort |

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