Practice Point

治療前のPSA上昇速度は放射線治療後の前立腺癌特異的死亡率に関連するのか?

原論文

D’Amico AV et al. (2005) Pretreatment PSA velocity and risk of death from prostate cancer following external beam radiation therapy. JAMA 294: 440–447

PRACTICE POINT(診療のポイント)

治療前のPSA上昇速度が2ng/mL/年を超える男性すべてが前立腺癌の進行によって死亡するわけではないが、このような患者は予後不良であるため、積極的な治療を行うべきである。

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SYNOPSIS(概要)

BACKGROUND(背景)

PSA値10ng/mL未満で前立腺癌と診断される男性の数は増え続けており、1回のPSA測定値は臨床的にあまり有用でなくなりつつある。しかし、連続的なPSA測定値から重要な予後情報を得られる可能性があることが次第に明らかとなっている。ある先行研究では、外科治療を受けた患者において、診断前1年間のPSA上昇速度(PSA velocity)が2.0ng/mLを超えると、前立腺癌特異的死亡率が上昇することが明らかにされた。

OBJECTIVES(目的)

放射線治療を受けた男性において、治療前のPSA上昇速度と前立腺癌特異的死亡率の関係を検討すること。

DESIGN AND INTERVENTION(デザインと介入)

本研究には、臨床病期T1cまたはT2の前立腺癌で、1989年1月~2002年12月に外部照射治療を受けた男性を組み入れた。初回の治療の時点で、補助的ホルモン療法を受けていた患者はいなかった。6カ月ごとの血清PSA値測定と年1回の直腸指診により追跡調査を行った。PSA上昇速度は、診断前の1年間に6カ月間隔で測定した2~3点の測定値を用いて算出した。PSA値10ng/mL未満、生検によるグリーソンスコア6以下、臨床腫瘍病期T1cまたはT2aを低リスク腫瘍と定義し、治療前のリスク状態に従って患者を分類した。Cox回帰分析を実施し(診断時の既知の予後因子について調整)、PSA上昇速度>2.0ng/mL/年が生化学的再発、前立腺癌特異的死亡率、全死因死亡率と関連するかどうかを検討した。

OUTCOME MEASURES(評価項目)

主要エンドポイントは、治療前のリスク状態(低リスク対高リスク)とPSA上昇速度(≦2.0ng/mL/年対>2.0ng/mL/年)で患者を分類して検討した、前立腺癌による死亡までの期間とした。

RESULTS(結果)

適格症例358例のうち125例が低リスク腫瘍、233例が高リスク腫瘍であった。診断時のPSA値の中央値は8.0ng/mL、診断前1年間のPSA上昇速度の中央値は1.5ng/mL/年であった。中央値4.0年(範囲0.2~13.5年)を超える追跡期間において、生化学的再発160例、前立腺癌死亡30例が発生した。これらの死亡例のうち28例はPSA上昇速度>2.0ng/mL/年であった。その他の因子について調整後、PSA上昇速度>2.0ng/mL/年の患者群は、PSA上昇速度≦2.0ng/mL/年の患者群と比べて、生化学的再発のリスクが高く(ハザード比[HR]1.8、95%CI 1.3~2.6、P=0.001)、前立腺癌特異的死亡率が高く(HR 12.0、95%CI 3.0~54.0、P=0.001)、全死因死亡率が高かった(HR 2.1;95%CI 1.3~3.6、P=0.005)。7年後の前立腺癌特異的死亡率を推定したところ、診断時に低リスク腫瘍を有したPSA上昇速度>2.0ng/mL/年の患者群では19%(95%CI 2~39%)であったのに対し、低リスク腫瘍と診断されたPSA上昇速度≦2.0ng/mL/年の患者群では0%であった(P<0.001)。また高リスク腫瘍と診断された患者群における推定値は、PSA上昇速度>2.0 ng/mL/年の例で24%(95%CI 12~37%)、PSA上昇速度≦2.0ng/mL/年の例で4%(95%CI 0~11%)であった(P<0.001)。

CONCLUSION(結論)

診断前1年間のPSA値上昇が2.0ng/mLを超えると、低リスク腫瘍を有する患者においてさえ、放射線治療後に前立腺癌によって死亡するリスクが有意に高くなる。

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COMMENTARY(解説)

Alan Pollack

死亡率の予測因子となる治療前因子を同定できることは、広範な臨床的意義をもつ。前立腺癌男性における古典的な治療前因子はグリーソンスコアと腫瘍病期である。最近では、治療前PSA1が独立予測因子であることが明らかにされている。前立腺癌に対して放射線治療を受けた男性において、治療前PSA上昇速度の使用を検討したD’Amicoらの知見は、臨床診療に大きな変化をもたらす可能性がある。

PSA上昇速度は、前立腺癌検診受診者に前立腺生検を施行すべきかどうかの判定にルーチンに用いられる手段となっている。PSA動態は、PSA倍加時間という形で、前立腺癌に対する根治的な局所療法後の転帰に関する強力な予測因子であることが多くの研究者によって報告されているが、つい最近では、治療前のPSA動態パラメータであるPSA上昇速度が、死亡率の決定因子として特定されている。D’Amicoら2は以前に、根治的前立腺摘除術を受けた男性において、術前PSA上昇速度が2.0ng/mL/年超であることが、前立腺癌特異的死亡率および全死亡率の上昇に強く関連すること報告した。今回の報告でも、外部照射治療を受けた男性において同様の関係が認められた。この関連は、PSA上昇速度を連続変数として評価した場合も有意性を保ち、単一のカットポイントに特異的なものではないことが示された。

PSA上昇速度と死亡率の関係の強さは、グリーソンスコアなどの治療前因子について過去に報告されたものより顕著である。前立腺癌によって死亡した男性30例のうち、28例ではPSA上昇速度が2.0ng/mL/年を超えていた。多変量解析において、PSA上昇速度が2.0ng/mL/年を超える患者群の前立腺癌による死亡のハザード比は12であった(P<0.001)。この研究では評価可能患者の約30%(358例中150例)でPSA上昇速度が2.0ng/mL/年を超えていたことを考慮すると、この知見の臨床的意義は明白である。根治的前立腺摘除術に関する研究2では、24%(1,095例中262例)で術前PSA上昇速度が2.0ng/mL/年を超えていた。

この研究から生じる根本的な疑問は、どうしてPSA上昇速度はこれほどまでに強力な前立腺癌による死亡の予測因子となるのか、である。著者らは、診断前1年間にほぼ6カ月間隔で測定したわずか2~3点のPSA測定値を用いるという厳密な基準を定めて、PSA上昇速度を算出している。この限界によって、もっとも関連性のあるPSA値が強調される。PSA動態は、とくに転移性腫瘍の発生によって、時間とともに加速する可能性があるのである。もう1つ考慮すべき点は、死亡率の予測因子を検討する研究にしては追跡期間が短期であったことであり、死亡例では腫瘍の進行がきわめて速かったことが示唆される。追跡期間が短い場合、2.0ng/mL/年を超えるPSA上昇速度は、微小転移性腫瘍と顕著な相関を示すと考えられる。追跡期間を長くすると、放射線治療後の局所再発の結果として第二波の転移が発生するため3、PSA上昇速度と死亡率の関係の有意性は多少低下する可能性がある。

治療前のPSA上昇速度が2ng/mL/年を超える男性すべてが、前立腺癌の進行によって死亡するわけではない。しかしながらこの知見は、はるかに不良な予後の前兆となるため、リスク状態が良好な患者であっても積極的な治療を行うべきである。限局性前立腺癌を有する高リスク患者に対する標準的治療法は、放射線治療+長期のアンドロゲン除去療法である4。線量増加5は高リスク患者に有効であるが、今後近いうちに、PSA上昇速度が2ng/mL/年を超える患者に大きな効果を及ぼす可能性は低い。

GLOSSARY(用語)

PSA上昇速度
血清PSA値が経時的に上昇する速度

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