ドキシサイクリンと変形性関節症―それがわれわれに示すもの
原論文
Brandt KD et al. (2005) Effects of doxycycline on progression of osteoarthritis. Results of a randomized, placebo-controlled, double-blind trial. Arthritis Rheum 52: 2015-2025
PRACTICE POINT(診療のポイント)
ドキシサイクリンは、患膝の変形性関節症の進行を遅らせる効果があるが、一般の診療で使用するためにはさらに詳細な試験が必要である。
SYNOPSIS(概要)
BACKGROUND(背景)
過去の実験研究により、テトラサイクリン系抗生物質のドキシサイクリンが膝の変形性関節症(OA)の進行を遅らせる効果があることが示唆されている。
OBJECTIVES(目的)
本試験は、X線検査でOAと診断された患者において、ドキシサイクリンが疾患の進行を抑制するか否かを判断することを目的とした。
DESIGN AND INTERVENTION(デザインと介入)
この無作為化二重盲検プラセボ対照試験は、X線検査で片側型膝OAと診断された45~64歳の肥満女性を対象とした。二次性膝OAや炎症性関節炎のある患者、またはテトラサイクリンに対するアレルギーの既往症がある患者は、本試験から除外した。プラセボ投与による30日間の導入期間の後、治験参加患者をドキシサイクリンもしくはプラセボの30カ月間投与に無作為化した。治療前と16か月目、試験の終了時に、脛骨大腿骨関節の裂隙狭小化(JSN)についてX線検査を実施した。全試験期間を通じて、6カ月ごとに関節痛を評価した。
OUTCOME MEASURES(評価項目)
本試験の主要評価項目は、膝の内側脛骨大腿骨部におけるJSNの割合とした。膝の疼痛および機能の変化を、副次的評価項目として用いた。
RESULTS(結果)
導入期間を無事終了した計431例の患者を本試験に適格とし、その後無作為化し、ドキシサイクリン100mg(n=218)もしくはプラセボ(n=213)を1日2回投与した。本試験を終了した患者数は計307例で、そのうち149例がドキシサイクリン群、158例がプラセボ群であった。治療前には、BMIやX線検査による重症度、最小JSN、膝の疼痛および機能障害、過去のOA治療歴について、両群間で有意差はなかった。患膝(index knee)の評価は、JSNの全体的な割合(P=0.009)や治療前の関節裂隙の幅(JSW、P<0.001)、治療前の疼痛(P<0.0001)について、両投与群間で有意差が認められた。16カ月後、ドキシサイクリン群におけるJSW減少の平均±標準偏差は0.15±0.42mmで、プラセボ群では0.24±0.54mmであった(調整後のP=0.027)。試験終了時、JSW減少の平均±標準偏差は、プラセボ群の患者に比べドキシサイクリン群では33%少なかった。対側の膝のデータを解析したところ、16カ月後と試験終了時のいずれにおいても、JSW減少は患膝で観察されたものと同程度であった。患膝における疼痛の増加が追跡時に平均20%を超えた報告(WOMAC疼痛尺度で判定)は、ドキシサイクリン群では少なかった。ドキシサイクリンの有意な効果は、対側の膝のJSNや疼痛については認められなかった。
CONCLUSION(結論)
膝OAと診断された患者において、ドキシサイクリンはJSNの割合を減少させる効果があるが、対側の膝のJSNや疼痛は軽減しない。
COMMENTARY(解説)
Tim D Spector
Brandtらによる本論文では、中等度膝OAの肥満女性におけるドキシサイクリンのプラセボ対照試験で得られた待望の結果が詳しく述べられている。わずか(33%)だが有意かつ有益なJSNの変化が患膝、すなわち症状の重い側の膝で認められたほか、異なる症状を示す傾向も観察された。ところが、主要評価項目のひとつである症状の軽い対側の膝では、ドキシサイクリンの効果は認められなかった。また、ドキシサイクリンの作用機序はまだ解明されておらず、軟骨あるいは骨、またはその両方が関与する可能性がある。
本試験は、いくつかの理由により重要である。第1に、本試験は、薬剤が3年以内に膝の軟骨の変化を抑制できることを示したPOC試験である。グルコサミンの試験でも、矛盾はあるものの同様の効果が報告されているが、方法論および生物学的理由により幅広く受け入れられていない。diacerheinの試験では、わずかな効果が股関節に認められ、治療によりJSNは減少したが症状には影響しなかった1。
第2に、こうした試験を効果的に実施することの難しさを著者らは示している。本試験は、計画から発表まで15年近くを要し、試験で用いられた「最先端」のX線技術は、今ではもはや時代遅れと言わざるを得ない。本試験は、X線法の感度と進行因子の不足を一因とする、巨額の費用を投じたリセドロン酸による大規模OA試験の失敗と時期を同じくしていた2。本試験は、最後の大規模X線治療試験のひとつとなる可能性が高い。一方、FDAおよび欧州医薬品審査庁(EMEA)は、MRIを用いた代替的治療の規範をいまだ決定しておらず、この分野は宙に浮いたままである。
第3に、JSWの改善を症状と相関づけるのは難しい。自然史データを裏付ける研究は、現在でこそ大規模な研究もあるが、最近までほとんどなかった3。相関の欠如は、有効性の欠如やX線の感度が原因であるとも考えられるが4、症例選択が原因である可能性も高い。疾患早期の患者は、十分な量の軟骨を持ち、症状は測定可能とはいえごく軽度もしくは間欠的である。一方、末期患者は、軟骨がごく少量またはまったくない場合が多く、疼痛は絶えず持続する。骨や軟骨の変化に対する感度がMRIによって向上しない限り、今後の試験は病期の両端にある患者について実施する必要があるだろう。
最後に、これらの薬剤が関節の損傷を遅延できることが実証されたところで、次の質問を検討する必要がある。新しい薬剤は必要性であろうか、また患者は新しい治療法を受け入れるであろうか? 長期的な抗生物質投与を受け入れる患者も少数いるが、多くの患者や医師は、手術不可能な疾患や重度の疼痛がない限り、たとえ消化器症状に対処できたとしても、ドキシサイクリンに不安を抱くであろう。これまで、この「成功した」試験が、貼り薬や骨切断術、関節置換術により簡単に治療できる病態に対して薬剤を開発するという、さらに不毛な努力をもたらすどうか論じられてきた5。グルコサミンやコンドロイチンをその効果を信じて長期間毎日服用しているが、症状が緩和していない多くの患者は、病気を治す薬に対する需要は真のものであり、OA薬に対するこの虚無的な将来展望に共感する人はほとんどいないだろうと述べる。著者としては、あえて体にメスを入れるよりも、月1回ビスフォスフォネート製剤などの安全とされている薬剤を長年服用するほうを選ぶであろう。したがって、さらに詳細なOA薬の試験が待ち望まれる。
Acknowledgments
The synopsis was written by Jasmine Farsarakis, Associate Editor, Nature Clinical Practice.
References
- Dougados M et al. (2001) Evaluation of the structure-modifying effects of diacerein in hip osteoarthritis: ECHODIAH, a three-year, placebo-controlled trial. Evaluation of the chondromodulating effect of diacerein in OA of the hip. Arthritis Rheum 44: 2539–2547
- Spector TD et al. (2005) Effect of risedronate on joint structure and symptoms of knee osteoarthritis: results of the BRISK randomised controlled trial. Arthritis Res Ther 7: R625–R633
- Bingham C et al. (2004) Predictors of structural progression in knee osteoarthritis over 24 months [abstract #254]. Arthritis Rheum 254: S149
- Mazzuca SA et al. (2004) Pitfalls in the accurate measurement of joint space narrowing in semiflexed, anteroposterior radiographic imaging of the knee. Arthritis Rheum 50: 2508–2515
- Dieppe P (2005) Disease modification in osteoarthritis: are drugs the answer? Arthritis Rheum 52: 1956–1959
