Practice Point

卵巣癌患者は初期の腫瘍縮小手術後に腹腔内化学療法を受けるべきか?

原論文

Armstrong DK et al. (2006) Intraperitoneal cisplatin and paclitaxel in ovarian cancer. N Engl J Med 354: 34–43

PRACTICE POINT(診療のポイント)

GOG 172の腹腔内化学療法レジメンは、最適な切除術を受けたIII期卵巣癌患者に対する新たな標準的治療法となるが、個々の患者に応じて提供すべきである

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SYNOPSIS(概要)

BACKGROUND(背景)

新たに卵巣癌と診断された患者の大部分では、手術と、白金製剤+タキサン系薬剤を併用した標準的静脈内化学療法によって完全寛解が誘導される。しかしほとんどの患者は、静脈内化学療法の用量を増加させても、最終的に再発をきたし癌により死亡する。前臨床データ、臨床データおよび薬物動態データでは、卵巣癌に対する腹腔内投与療法の施行が支持されているが、この手法はまだ広く受け入れられていない。

OBJECTIVES(目的)

卵巣癌において、シスプラチンとパクリタキセルを用いた腹腔内化学療法の施行により、シスプラチンとパクリタキセルを静脈内投与した場合と比べて、無増悪生存期間と全生存期間が改善されるかどうかを検討すること。

DESIGN(デザイン)

Gynecologic Oncology Groupが実施したこの無作為化第III相試験は、化学療法または放射線治療が未施行のIII期上皮性卵巣癌または腹膜癌の患者を対象としたものであった。組み入れ基準は、Gynecologic Oncology GroupのPS 0~2(0=十分に活動できる、4=まったく活動できない)、術後の残存腫瘍が直径1cm以下であること、肝機能と腎機能が十分であること、血球数が正常であることとした。

INTERVENTION(介入)

1998年3月~2001年1月に、対象を無作為に2群に割り付け、1群には1日目にパクリタキセル(135mg/m2)+2日目にシスプラチン(75mg/m2)を静脈内投与する治療を6サイクル施行し(静脈内投与療法)、もう1群には1日目にパクリタキセル(135mg/m2)を静脈内投与後、2日目にシスプラチン(100mg/m2)+8日目にパクリタキセル(60mg/m2)を腹腔内投与する治療を6サイクル施行した(腹腔内投与療法)。

OUTCOME MEASURES(評価項目)

無増悪生存期間と全生存期間を主要エンドポイントとし、毒性とQOLについても評価した。

RESULTS(結果)

無増悪生存期間中央値は静脈内投与療法群で18.3カ月、腹腔内投与療法群で23.8カ月(P=0.05)、全生存期間中央値は静脈内投与療法群で49.7カ月、腹腔内投与療法群で65.6カ月(P=0.03)であった。腹腔内投与療法群では静脈内投与療法群と比べて、割り付けられた治療の全6サイクルを完了した患者が少なく(42%対83%)、重度または生命を脅かす疼痛や倦怠感、あるいは血液、代謝、消化管、神経に対する毒性が認められた患者が多かった(P≦0.001)。腹腔内治療中止の主な理由はカテーテル関連合併症であった。治療前のQOLスコア、年齢、PSで補正すると、腹腔内投与療法群は静脈内投与療法群と比べて、4サイクル以前(P<0.001)と治療後3~6週間のQOLが低かったが、治療から1年後にはそのような差は認められなかった。追跡調査期間中央値は静脈内投与療法群で48.2カ月、腹腔内投与療法群で52.6カ月であった。

CONCLUSION(結論)

最適な腫瘍縮小が得られた卵巣癌患者で、パクリタキセルを静脈内投与後にシスプラチンとパクリタキセルを腹腔内投与した例は、パクリタキセルとシスプラチンを静脈内投与した例より、死亡リスクが大幅に低かった。

KEYWORDS(キーワード)

シスプラチン、腹腔内投与療法、卵巣癌、パクリタキセル、生存

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COMMENTARY(解説)

Carolyn Runowicz

初期の腫瘍縮小手術後に微小残存病変が認められる卵巣癌患者に化学療法剤を腹腔内投与する治療法への関心は、先ごろこの試験結果(GOG 172)が発表されたことによって再燃している。本試験では、III期上皮性卵巣癌(最適な腫瘍縮小が得られた)患者を対象に、パクリタキセルを静脈内投与後にシスプラチンとパクリタキセルを腹腔内投与する治療法と、パクリタキセルに続いてシスプラチンを静脈内投与する治療法とが比較された。著者らは、腹腔内投与療法を行った患者群では全生存期間中央値が15.9カ月延長することを報告した。米国国立癌研究所(NCI)は、III期上皮性卵巣癌の女性に対し、シスプラチンとタキサン系薬剤の腹腔内投与を検討すべきであると提案した公報を発行した1

本試験と、先行する2件の無作為化試験では、シスプラチンの腹腔内投与により全生存期間が改善することが証明された。Albertsら2は直接的な一対一比較を行い、一方Markmanら3は腹腔内投与群に高用量のカルボプラチン投与をさらに2サイクル追加した。先行研究ではNCIによる標準的治療法への警告または変更に至らなかったが、データ全体からは、この患者群に対するファーストライン治療として腹腔内投与療法を検討する価値のあることが示されている。現在のレジメンを採用する前に、考慮すべき問題がいくつかある。

GOG 172では、3つの薬剤(2剤を腹腔内投与、1剤を静脈内投与)と、それとは異なったスケジュールで静脈内投与する2剤とが比較されている。腹腔内投与群では、腹腔内および静脈内経路による持続注入を行うことになる。腹腔内投与群のうち、割り付けられた腹腔内投与療法を完了したのはわずか42%であり、この群に割り付けられた患者の18%は、毒性による腹腔内投与療法の中止後、カルボプラチンとパクリタキセルを静脈内投与された。腹腔内投与療法中止の原因となった毒性は、アクセス器具に関連した問題、注入に伴う腹痛、より高用量のシスプラチンに対する不忍容などであった。生存期間に影響を及ぼした治療サイクル数は不明である。

GOG 172が計画された時点で、GOG 158の結果は発表されていなかった。GOG 158では、カルボプラチン+パクリタキセルを静脈内投与した患者群は、シスプラチン+パクリタキセルを静脈内投与した患者群と比べて、全生存期間中央値が8.7カ月改善する(相対リスク0.84、95%CI 0.70~1.02)ことが報告された4。異なる試験間の比較は統計学的に有効ではなく、対象集団も異なっていた可能性はあるが、GOG 158のカルボプラチン+パクリタキセル静脈内投与群とGOG 172の腹腔内投与療法群の間で、予後の差を比較することは興味深い。これら2試験を比較すると、無増悪生存期間は3.1カ月、全生存期間が8.2カ月、腹腔内経路群のほうが長い。2年生存率には差がなく、4年生存率の差はわずか4~5%である。

この試験と先行する第III相無作為化試験2,3の結果から、化学療法の新たな標準的手法は、残存腫瘍体積が小さい進行卵巣癌を主に化学療法によって管理する段階に達していることが示唆される。しかし、これが広く受け入れられるにはまだいくつかの障害がある。よく管理された前向き無作為化試験によって、標準的化学療法(GOG 172で対照群とされたシスプラチン+パクリタキセル静脈内投与ではなく、カルボプラチン+パクリタキセル静脈内投与)より優れた生存利益が証明されるまで、腹腔内投与療法を最適なIII期病変を有する患者にルーチンに施行する必要はない。臨床医がしてはならないことは、発表されたレジメンに変更を加えることである。そのような変更によって、治療効果までもが変化してしまう可能性があるためである。

References

  1. National Institutes of Health (online January 2006) NCI issues clinical announcement for preferred method of treatment for advanced ovarian cancer [http://www.nih.gov/news/pr/jan2006/nci-04.htm] (accessed 21 April 2006)
  2. Alberts DS et al. (1996) Intraperitoneal cisplatin plus intravenous cyclophosphamide versus intravenous cisplatin plus intravenous cyclophosphamide for stage III ovarian cancer. N Engl J Med 335: 1950–1955  | Article | PubMed | ISI | ChemPort |
  3. Markman M et al. (2001) Phase III trial of standard intravenous cisplatin plus paclitaxel versus moderately high-dose carboplatin followed by intravenous paclitaxel and intraperitoneal cisplatin in small-volume stage III ovarian carcinoma: an intergroup study of the Gynecologic Oncology Group, Southwestern Oncology Group, and Eastern Cooperative Oncology Group. J Clin Oncol 19: 1001–1007  | PubMed | ISI | ChemPort |
  4. Ozols RF et al. (2003) Phase III trial of carboplatin and paclitaxel compared with cisplatin and paclitaxel in patients with optimally resected stage III ovarian cancer: a Gynecologic Oncology Group study. J Clin Oncol 21: 3194–3200  | Article | PubMed | ISI | ChemPort |

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