腹壁ヘルニアの修復における腹腔鏡下手術と観血手術の比較―どちらが最適?
原論文
Beldi G et al. (2006) Laparoscopic ventral hernia repair is safe and cost effective. Surg Endosc 20: 92–95
PRACTICE POINT(診療のポイント)
腹壁ヘルニアの腹腔鏡下修復術は、実行可能で安全な選択肢であるが、その全体的意義はより長期的な再発率によって決まる。
SYNOPSIS(概要)
BACKGROUND(背景)
腹腔鏡下腹壁ヘルニア修復術(VHR)は、二重メッシュが出現したことにより、臨床の現場で施行される機会が増えつつある手法である。しかしながら、この手法の有効性、安全性、費用対効果は、従来の観血的VHRと十分に比較されていない。
OBJECTIVES(目的)
腹腔鏡下VHRの有効性と安全性を評価し、観血的VHRと比較すること。
DESIGN AND INTERVENTION(デザインと介入)
直径2cm以上のヘルニアがあり、2003年3月~2005年3月にVHRとしてメッシュを挿入された連続した患者を本研究に組み入れた。腹腔鏡下手術を施行した患者の医療データは前向きに収集し、観血的VHRを施行した患者のデータは後ろ向きに調査した。腹腔鏡下手術の除外基準は、一般的な禁忌、患者の手術拒否などとした。いずれの手術も、患者を仰臥位にして施行した。全患者に対し、アモキシシリンとクラブラン酸の合剤による予防的抗菌薬投与を1回行った。術後4週間は重いものを持ち上げないよう患者に指示した。観血手術では、全例にVyproTMメッシュ(Ethicon社、米ニュージャージー州Somerville)を用い、腹直筋鞘を5cm以上にわたって覆うように置いた。一方、腹腔鏡下手術では、全例にParietene®重合メッシュ(Sofradim社、フランスVillefranche-sur-Saône)を用い、筋膜欠損部を4cm以上にわたって覆うように置いた。各手法の手術費用は、手術に使用したすべての器材の費用を合計して評価した。入院費用は、職員給与、設備、器材の費用を合計して算出した。
OUTCOME MEASURES(評価項目)
主要評価項目は、合併症発生率と治療費用とした。副次的評価項目はヘルニア形成のリスク因子などとした。
RESULTS(結果)
合計141例の患者を本研究に組み入れた。92例は観血手術施行例、49例は腹腔鏡下手術施行例であった。追跡調査期間は、観血手術施行例で69週(範囲6~115週)、腹腔鏡下手術施行例で10週(範囲6~25週)であった。観血的VHR施行例は、腹腔鏡下VHR施行例と比べて入院期間が有意に長かった(7日[範囲2~87日]対6日[範囲3~32日]、P=0.02)。合併症は、観血的VHR施行例において腹腔鏡下VHR施行例と比べて有意に多く発生した(25例対7例、P=0.09)。手術合併症でもっとも多かったのは感染で、これは観血的VHR施行例において腹腔鏡下VHR施行例より有意に多く認められた(13例対1例、P=0.03)。腹腔鏡下VHRの手術費用は、観血的VHRの手術費用より有意に少なかった(2,314±925ユーロ対2,853±1,147ユーロ、P=0.03)。さらに、治療全体の費用(手術費用と入院費用の合計)は、腹腔鏡下VHRのほうが観血的VHRより有意に少なかった(7,654±3,204ユーロ対9,787±8,021ユーロ、P=0.02)。
CONCLUSION(結論)
腹腔鏡下VHRは、観血的VHRと比べて、手術部位の感染発生率が低く、入院期間が短く、治療全体の費用が少ないため、優れているといえる。
KEYWORDS(キーワード)
合併症、費用対効果、腹腔鏡下腹壁ヘルニア修復術、障害発症、観血的腹壁ヘルニア修復術
COMMENTARY(解説)
Marc Zerey and B Todd Heniford
腹壁ヘルニアは、通常の手術に伴う長期の障害に寄与する重要な要因の1つである。従来の一次修復では、開腹と、欠損部両側での筋膜組織の隣接縫合(suture approximation)が必要である。しかし、長期追跡調査におけるこの手術後の再発率は41~52%である1,2。補綴メッシュを挿入する観血的ヘルニア縫合術は、再発率が比較的低い(12~24%)と考えられているが、広い範囲の軟部組織を切開する必要があるため、創部感染や創部関連合併症の発生率は高くなる(12%以上)。これらの問題が要因となって、新たな腹壁ヘルニア修復法の模索が続けられている。
腹腔鏡下法、すなわち低侵襲法には、補綴メッシュを筋後方に置くことによって、メッシュの正しい位置での固定を助ける腹圧の効果を得られるという考えが取り入れられている。しかしこの手法では、メッシュが観血的手法より一層深部(腹膜内)に挿入される。安全なヘルニア修復の基本要素は、幅の広いメッシュで欠損部を覆い、メッシュを正しい位置に固定する一次機構として経腹的縫合を用いて、腹腔鏡下で修復が行われた場合に維持される。しかし腹腔鏡下法は、従来の観血的手法と比べて、感染発生率が低い、美容的に優れている、疼痛が少ない、入院期間が短い、費用が少ないなどの利点があると考えられる。いくつかの研究によって、腹腔鏡下手術はほとんどの腹壁ヘルニアに対して実行可能な手術選択肢であることが示されている3-5。
今回の非無作為化研究でBeldiらは、軽量のポリプロピレンメッシュとポリプロピレン重合メッシュを用いた観血的VHRと腹腔鏡下VHRの短期転帰を比較した。手術部位の感染、入院期間中央値、費用は、腹腔鏡下VHR施行例で統計学的に少なかったが、この研究の全体的な意義はいくつかの理由により薄れている。第1の理由として、腹腔鏡下VHR施行例のデータのみが前向きに収集された点が挙げられる。このため、著者らの選択バイアスによってこの患者群の転帰が改善した可能性がある。第2に、腹腔鏡群で報告された入院期間が驚くほど長い(6日)点がある。ここ数年間に発表された腹腔鏡下VHRに関する研究では、平均入院期間は2~3日であることが報告されている3-5。ただし、これはヘルニアの大きさによって異なる。入院費用のうちかなりの割合が術後期に発生することを考慮すると、入院期間がより短期であれば、低侵襲法の費用対効果はさらに顕著であったであろう。最後の理由として、この研究では退院後に追跡調査した患者の数が報告されておらず、そのため合併症または再発の発生率が過少報告された可能性が挙げられる。考察の中で著者らは、ポリプロピレンベースの重合メッシュを用いた場合は漿液腫の発生率が低いことを記している―これは、研究の中でどのようにして記録したのであろうか? 超音波を使用したのであろうか?
Beldiらの研究は、観血的VHRと比較しての腹腔鏡下VHRの実行可能性と期待される利点を短期的に評価したものである。北米や欧州の他の研究者たちから報告される腹腔鏡下VHRの安全性に関する文献は膨大なものとなりつつあり、この研究は、上述のような欠点にもかかわらず、その増大に寄与している。
Acknowledgments
The synopsis was written by Rachel Jones, Associate Editor, Nature Clinical Practice.
References
- Stoppa RE (1989) The treatment of complicated groin and incisional hernias. World J Surg 13: 545–554 | Article | PubMed | ChemPort |
- Luijendijk RW et al. (2000) A comparison of suture repair with mesh repair for incisional hernia. N Engl J Med 343: 392–398 | Article | PubMed | ChemPort |
- Heniford BT et al. (2003) Laparoscopic repair of ventral hernias: nine years' experience with 850 consecutive hernias. Ann Surg 238: 391–400 | PubMed |
- Park A et al. (1998) Laparoscopic and open incisional hernia repair: a comparison study. Surgery 124: 816–821 | Article | PubMed | ChemPort |
- Carbajo MA et al. (1999) Laparoscopic treatment vs open surgery in the solution of major incisional and abdominal wall hernias with mesh. Surg Endosc 13: 250–252 | Article | PubMed | ChemPort |
