Practice Point

ダブルバルーン小腸内視鏡は臨床にどのような影響を与えるか?

原論文

Di Caro S et al. (2005) The European experience with double-balloon enteroscopy: indications, methodology, safety and clinical impact. Gastrointest Endosc 62: 545–550

PRACTICE POINT(診療のポイント)

ダブルバルーン小腸内視鏡は、小腸病理の診断および治療のための有望な技法である。しかし、医療現場におけるその有効性および使用の安全性を確かめるためには、さらなる研究が必要である。

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SYNOPSIS(概要)

BACKGROUND(背景)

小腸は近づきがたい臓器であり、その視覚化は困難である。そのために、小腸疾患の診断や治療も困難となっている。ダブルバルーン小腸内視鏡(DBE)は、この問題を克服するために開発された器具であり、小腸の高解像度による可視化と生検、および治療介入を可能とする。

OBJECTIVES(目的)

小腸疾患の患者におけるDBEの適応症、および有効性と安全性を決定すること。

DESIGN AND INTERVENTION(デザインと介入)

この欧州における後向き多施設共同試験には、DBEで検査された既知の小腸疾患の患者または小腸疾患と疑われる患者が含められた。DBEの適応症としては、原因不明の消化管出血、鉄欠乏性貧血、慢性の下痢、消化管腫瘍の追跡調査、小児脂肪便症と疑われる症例および難治性の小児脂肪便症が含められた。DBEは経肛門、経口または両経路を通して実施された。患者はすべて、DBEに先立ち6時間断食し、痛覚鎮静のために経静脈プロポフォール、ミダゾラムまたはペチジンが投与された。経肛門的にDBEを受ける患者には、DBEの24時間前にポリエチレングリコールを主とする溶液を4リットル与え、清澄流動食を与えた。DBEはビデオプロセッサー、ビデオ小腸内視鏡およびフレキシブルオーバーチューブを用いて実施された。挿入の深度は挿入された内視鏡のセグメントを記録することで測定された。

OUTCOME MEASURES(評価項目)

診断および治療の割合を主要評価項目とした。副次的評価項目は、合併症、挿入の深さ、および処置時間の割合などとした。

RESULTS(結果)

合計62例の患者(平均年齢52±35歳)が研究に含められた。DBEは、経口、経肛門および両方の経路により、それぞれ26例、9例および27例の患者に実施された。合計89回の処置が実施された。DBEの平均所要時間は、経口では70±30分、経肛門では90±35分であった。10例の患者(16.2%)で小腸全体が検査された。内視鏡挿入の平均深度は、幽門からは254±174 cm、回盲弁からは180±50cmであった。準臨床的な回腸狭窄症(5例の患者)または大腸のルーピング(5例の患者)のために、10例の患者で小腸内視鏡の通過が妨げられた。DBEによる診断は計50例の患者(80%)で達せられ、原因不明の消化管出血が患者33例中29例、鉄欠乏性貧血が患者5例中1例、慢性下痢が患者5例中3例、消化管がんが患者3例中2例、クローン病が患者3例中2例、および小児脂肪便症が患者3例中3例であった。DBEに先立ち、原因不明の消化管出血の患者は、この処置を用いて出血源が特定あるいは治療される前に、平均5±2回の診断処置を経験していた。DBEのさいの治療介入は26例の患者(41.9%)で行われた。重篤な合併症は報告されなかった。

CONCLUSION(結論)

DBEは、既知の小腸疾患またはそれの疑われる患者に対する安全かつ効果的な診断・治療方法であり、とくに原因不明の消化管出血の患者に役立つ。

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COMMENTARY(解説)

Takayuki Matsumoto

1990年代の末まで、小腸は内視鏡検査医にとっては捕らえにくい未踏の領域であった。研究者たちが、さまざまな方法を用いて小腸検鏡を試みようと奮闘したにもかかわらず、小腸の一部が可視化できたに過ぎなかった。プッシュ方式の小腸内視鏡は臨床の広い範囲で使用され、小腸病理の診断や治療に対する臨床的な価値をいくらか示していたとはいえ1、小腸全体の検鏡は達成されないでいた。つまり、術中内視鏡が小腸全体の観察を可能とする唯一の手段であった。

しかし、21世紀の幕開けとともに、ビデオカプセル内視鏡とDBEという新しい2つの方法が小腸内視鏡の分野に導入された。試みがすべて成功しているわけではないが、どちらの手技を用いても小腸全体の検鏡を達成することができる。また、DBEは生検と内視鏡による処置をも可能とする。

最初に日本の山本とその共同研究者たちによって開発され、現在では日本と西欧諸国で市販されているDBE2,3は、従来的な内視鏡とフレキシブルなオーバーチューブの互恵的な進歩によって特徴づけられる器具である。その名称は、内視鏡とオーバーチューブの先端の2つのバルーン(これらが膨らんで腸壁をつかむ)を特徴とするユニークな構成を示している。このバルーンの膨張後にオーバーチューブと内視鏡を引き戻すことによって、範囲圏内の小腸が短くなり、器具が小腸のより深部へと進むことが可能となる。

本研究においてDi Caroらは、欧州4カ国におけるDBEの臨床的意義について分析した。その後ろ向き分析では、この手法を用いて検査された62例の患者中48例(77%)において有意な小腸病理が見つかった。この患者群においてもっとも頻繁にみられた診断は、血管形成異常であった。興味深いのは、この研究において、処置が学習段階で実施された場合でも合併症がみられなかった点である。ただし、同じ研究者らが、その後の前向き研究のなかで、処置を受けた患者の12%においてマイナーな合併症を報告している4

現在、内視鏡検査医はDBEを使って、小腸以外の消化管と同様に小腸を容易に可視化することができる。Di Caroらによる今回の結果と、他の研究者の結果3-5に基づき、臨床医は小腸病理、とくに原因不明の消化管出血の診断および処置のための有望な手法としてDBEを受け入れるべきであろう。とはいえ、いまだ解答の得られていない問題がいくつかある。消化管出血を調べる内視鏡検査医の第一選択肢としては、2つの手技(DBEとビデオカプセル内視鏡)のどちらを選ぶべきか。侵襲性で時間のかかるDBEを、他のどのような疾患に適用すべきか。臨床医はDBEが完全に安全な処置であると患者に言うことができるか。DBEの成功の実現可能性については詳しい報告がある。今こそ、小腸検鏡法の適応に関する臨床ガイドラインを確立するときである。

Acknowledgments

The synopsis was written by Rachel Jones, Associate Editor, Nature Clinical Practice.

References

  1. Davies GR et al. (1995) Diagnostic and therapeutic push type enteroscopy in clinical use. Gut 37: 346–352  | PubMed | ISI |
  2. Yamamoto H et al. (2001) Total enteroscopy with a nonsurgical steerable double-balloon method. Gastrointest Endosc 53: 216–220  | Article | PubMed | ISI |
  3. Yamamoto H et al. (2004) Clinical outcomes of double-balloon endoscopy for the diagnosis and treatment of small-intestinal diseases. Clin Gastroenterol Hepatol 2: 1010–1016  | Article | PubMed |
  4. Ell C et al. (2005) Push-and-pull enteroscopy in the small bowel using the double-balloon technique. Results of a prospective European multicenter study. Endoscopy 37: 613–616  | Article | PubMed | ISI |
  5. Matsumoto T et al. (2005) Performance of antegrade double-balloon enteroscopy. Comparison with push-enteroscopy. Gastrointest Endosc 62: 392–398  | Article | PubMed | ISI |

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