Practice Point

疼痛便秘型過敏性腸症候群の治療に対してフルオキセチンはどの程度有効か?

原論文

Vahedi H et al. (2005) The effect of フルオキセチン in patients with pain and constipation-predominant irritable bowel syndrome: a double-blind study. Aliment Pharmacol Ther 22: 381–385

PRACTICE POINT(診療のポイント)

医師は、難治性の便秘型過敏性腸症候群の患者に対して標準用量の選択的セロトニン取り込み阻害薬の使用を検討することがあるが、効果はまだ証明されていない。

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SYNOPSIS(概要)

BACKGROUND(背景)

フルオキセチンなどの選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)は、過敏性腸症候群(IBS)患者の治療に用いられているが、この適応におけるSSRIの有効性は証明した無作為化試験はほとんどない。

OBJECTIVES(目的)

疼痛便秘型IBS患者の治療におけるフルオキセチンの有効性を、プラセボと比較して評価すること。

DESIGN AND INTERVENTION(デザインと介入)

この前向き二重盲検無作為化比較試験には、Shariati hospital(テヘラン)の胃腸科外来に紹介された連続した患者が登録された。ROME II診断基準によって定義された疼痛便秘型IBS患者を本研究の対象とした。除外基準は、50歳を超えてからの発症、症状の重症度の増加、睡眠障害を頻繁に引き起こす症状、緩下薬または消化管運動促進薬の使用、身体診察、臨床検査、または大腸鏡検査により確認されたすべての器質性疾患などとした。適格患者をフルオキセチン20 mgまたはプラセボを1日1回12週間投与する群のいずれかに無作為に割り付けた。患者の追跡調査は、投与期間中の2週間毎と投与終了後4週間の時点で実施した。各来院時に、Rome II診断基準を用いて、著明な鼓脹、硬便、便通回数、著明な腹部不快感、および排便習慣の変化の5つの症状を評価した。著明な鼓脹または腹部不快感は、日常生活を妨げる症状と定義した。便通回数は、1週間の便通回数と定義し、症状は1週間に便通が3回未満であった患者について記録した。

OUTCOME MEASURES(評価項目)

主要評価項目は、評価を行った5つの症状の頻度とした。副次的評価項目は、有害事象の発現率などとした。

RESULTS(結果)

疼痛便秘型IBS患者合計44例(平均年齢34.9±10.0歳)を本試験に登録した。プラセボ群とフルオキセチン群に、それぞれ患者22例を登録した。4週目から12週目の投与終了までは、鼓脹、腹部不快感、硬便、便通回数、排便習慣の変化の各症状の頻度は、フルオキセチン群のほうがプラセボ群より有意に低かった(すべての症状の比較においてP<0.05)。排便習慣の変化を除くすべての症状の頻度は、試験終了時(16週目)まで継続して、フルオキセチン群のほうがプラセボ群より有意に低かった。試験期間全体で、フルオキセチンはプラセボに比べて患者1例当たりの症状の平均発症数を減少させた(それぞれ4.6から0.7、4.5~2.9に減少、P<0.001)。試験薬の忍容性は良好で、投与中止につながった有害事象は認められなかった。有害事象は、フルオキセチン群で35件、プラセボ群で19件発現した。発現頻度の高かった有害事象は、頭痛、悪心などであった。

CONCLUSION(結論)

フルオキセチンは、疼痛便秘型過敏性腸症候群患者の治療に対して有効であり、忍容性は良好である。

KEYWORDS(キーワード)

便秘型過敏性腸症候群、フルオキセチン、疼痛、選択的セロトニン再取り込み阻害薬

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COMMENTARY(解説)

Nicholas J Talley

IBS患者の治療におけるSSRIの有効性については、これまでに発表された研究がほとんどないため、依然として見解の一致をみていない。作用機序を考慮すると、SSRIは有効である可能性がある。フルオキセチンは、健常対照者と便秘型IBS患者において、盲腸通過と全腸通過を促進することが示されている1。ベンラファキシンが健常被験者の結腸のコンプライアンス(結腸の容積と膨張性)を低下させることが示されているものの、SSRIまたは選択的ノルエピネフリン再取り込み阻害薬が内臓の過敏性を変化させるという証拠はない2。IBSにおけるSSRIの効果が、腸(即時に作用する可能性がある)または脳(数週間にわたり作用する可能性がある)における、セロトニン輸送蛋白質(SERT)の局所的な阻害と関連しているかどうかは依然として不明である。実際に、1件の研究において、IBS患者では結腸粘膜のSERT値が低下し、粘膜からのセロトニン放出が不足していることが示唆されている。しかし、SSRIがこのような異常を修正するかどうかは不明である3

IBS患者を対象としてSSRIを使用した臨床試験の結果はさまざまである。Vahediらが実施した本試験に登録された患者は44例のみであったが、フルオキセチンが、プラセボに比べて腹部不快感、鼓脹、硬便、便通回数、排便習慣の変化に対して有意な効果を示すことが証明された。しかし、この評価はおそらく医師の問診によってなされたものであり、標準化が不十分であった可能性がある。さらに、有効性の総合評価が行われなかったため、本研究の臨床的な解釈にはさらなる限界がある。投与期間終了時に患者に認められた治療効果は追跡期間中も継続していたようであり、興味深い。この結果が、フルオキセチンの半減期が非常に長い(15日まで)ことに起因するのか、または受容体の機能の変化とその後の症状の閾値の変化に起因するのかは不明である。

Creedらは、重度のIBS患者を対象として、パロキセチンを用いた治療を、標準療法および個別の精神療法と比較した4。パロキセチンは、標準療法に比べて患者が疼痛を感じる期間を減少させたが、疼痛の重症度は変わらなかった。プラセボ群を設定しなかったことにより、この研究の解釈の幅が制限されている。Kuikenらは、IBS患者40例を対象とした研究において、フルオキセチンがプラセボより優れていることを証明できなかった。しかし、これらの患者のうち便秘型IBSを呈していたのはごく少数であり、このことが否定的結果の原因である可能性がある5

全体的にみて、SSRIがIBSに有効であることを示す証拠はいまだ不十分である。研究すべきことは非常に多い。第1に、SSRIが便秘型IBS患者に対して効果を示し、その他のIBSのサブグループに対しては効果を示さないことを確認するための、確定的な研究が必要である。第2に、選択的ノルエピネフリン再取り込み阻害薬などのその他の薬剤について、適切な試験を行う必要がある。第3に、IBSに対するSSRIの作用機序をさらに明らかにする必要がある。SSRIは末梢および中枢の両方で作用している可能性がある。第4に、SERTをコードする遺伝子の多型などの、SSRIに対する反応の予測因子になり得る情報により、新たな洞察が得られるかもしれない。遺伝子レベルの差違によってIBS患者のサブグループ間の反応の違いを説明できる可能性がある。最後に、SSRI系薬剤の有害作用を忘れてはならない。SSRI使用患者において、とくに非ステロイド性抗炎症薬と併用した場合、消化管出血のリスクが増加する6。消化器専門医は、このような薬剤を使用中の患者の経過観察時には、このことを念頭に置くべきである。

References

  1. Gorard DA et al. (1994) Influence of antidepressants on whole gut orocaecal transit times in health and irritable bowel syndrome. Aliment Pharmacol Ther 8: 159–166  | PubMed | ISI | ChemPort |
  2. Chial HJ et al. (2003) Effects of venlafaxine, buspirone, and placebo on colonic sensorimotor functions in healthy humans. Clin Gastroenterol Hepatol 1: 211–218  | Article | PubMed | ChemPort |
  3. Coates MD et al. (2004) Molecular defects in mucosal serotonin content and decreased serotonin reuptake transporter in ulcerative colitis and irritable bowel syndrome. Gastroenterology 126: 1657–1664  | Article | PubMed | ISI | ChemPort |
  4. Creed F et al. (2003) The cost-effectiveness of psychotherapy and paroxetine for severe irritable bowel syndrome. Gastroenterology 124: 303–317  | Article | PubMed | ISI |
  5. Kuiken SD et al. (2003) The selective serotonin reuptake inhibitor fluoxetine does not change rectal sensitivity and symptoms in patients with irritable bowel syndrome: a double blind, randomized, placebo-controlled study. Clin Gastoenterol Hepatol 1: 219–228  | ChemPort |
  6. Weinrieb RM et al. (2005) Selective serotonin re-uptake inhibitors and the risk of bleeding. Expert Opin Drug Saf 4: 337–344  | Article | PubMed | ChemPort |

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